第123話「予想外の事態」
後になって思えば。
俺がわざわざ行く必要はなかったように思う。
いくら絵里が体調を崩したと言っても、命に別条があったわけでもない。
あの子についてやるとして、俺である必要がない。
むしろ、ここで俺が絵里に接触することはリスクが大きい。
だから、木村をうまく丸め込んで絵里のことを任せた方がよかったはずだ。
はずなのだが。
「あ、日高先生……」
合流地点で俺を真っ先に出迎えたのはわんださんだった。
事情を知っているわんださんはジト目で俺を見る。
「なんでここに先生が……」
「ちょっと色々あって」
俺も正直ここに来るべきではないとわかっていたのだが。
「まあどうせ愛しのパートナーガ心配でたまらなかったのだろうとは思いますけど―」
「うるせえぞ……」
図星を指摘されて、俺は目を逸らすことしかできなかった。
「それはともかく、絵里は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですから、落ち着いてください、先生。名前呼びはまずいです」
「ああごめん。ていうか大丈夫、なのか?」
わんださんの態度はまるで、絵里を心配する必要はないとでも言わんばかりだった。
「ええと、ですね……もうだいぶ回復したと言いますか」
「あ、日高先生!」
女子生徒が一人走ってきた。
見覚えがある顔だな。
教えたことがあるから当然と言えば当然か。
彼女とわんださんに連れられて、俺は絵里の元に急いだ。
「月島は大丈夫か?」
「え、ええ。ちょっと移動を急ぎ過ぎたと言いますか」
「……?」
「月島ちゃん、疲れちゃったみたいで、横になってます」
「疲れ?」
「はい、ばてちゃったみたいで、顔が白くなってたんですよ。本人はまだいけますって言ってたんですけど、そんなわけないので休ませました」
「なるほどねえ」
話を聞く限りでは、なんというか、実に絵里らしい。
絵里は、言うまでもなく素晴らしいクリエイターであり、Vtuberであるが、欠点もある。
その一つが、絶望的に体力がないという点だ。
コミケなどでも、歩き回るだけでかなり消耗していたし、合宿も遊んだはふらふらだった。
普段家からまともに出ない生活をしているので仕方がないのだが。
京都を歩き回る今回の修学旅行でも、この欠点が出てしまった形だ。
◇
すぐ近くの喫茶店に、絵里たちはいた。
テーブル席についた女子二人と、絵里。
女子二人はスマホを触りながら、パフェを食べている。
絵里の方はぐったりとして、壁に寄りかかっているが、顔色自体は大部元に戻っていた。
ただ、目は焦点が合っていないが……傍から見ると辛いことがあって落ち込んでいるようにしか見えない。
俺は椅子に座って
「よう、体調はどうだ?」
「あ、日高先生!月島ちゃんもうだいぶ回復しました」
「え、あ、たすっ、日高先生!」
おい今下の名前で呼ぼうとしてなかったか?
いや俺についても別に人のことは言えないんだが。
まあ大丈夫だろう。
教師の下の名前って、案外覚えてないものだし。
……大丈夫だよな?
絵里は、体を起こして頭を下げてくる。
「すみません、心配をおかけして」
「いや、気にするな。回復したならそれでいいよ」
俺は、微笑んで立ち上がる。
立ち上がろうとして、身体が止まった。
「うん?」
見ると、服の袖を絵里が掴んでいた。
「えっと……」
「あっ」
どうしよう。
別に嫌なわけではない。
わけではないのだが……どうしたものか。
「月島ちゃん、どうかしたの?」
「まだ寝ぼけてるとか?」
「あ、はい、すみません、ちょっとぼーっとしてて」
「そっか、じゃあ、俺はそろそろ行くな」
「は、はい、すみません!」
真っ赤になったかわいい顔をした絵里に後ろ髪を引かれつつ、俺は五千円札を置いて喫茶店を後にした。
……そういえば、あの子たちパフェ食べてたけど五千円だと足りないか?
まあ、最悪残りは自分達で払ってもらおう。
◇
「月島ちゃん……もしかしてああいう人がタイプなの?」
「んんっ」
「あー、なるほどそういうことかあ」
「確かに月島ちゃんだけ恋バナに全然乗ってこなかったもんね」
「はーい、そこまでにしときなよー。絵里ちゃん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。……あと、ありがとうございます、わんだちゃん」
「いいってことよ―。その代わり、また色々聞かせてねー」
「はい……」
◇◇◇
「彼女をNTRされたら、何故か彼女の妹がギャルになって迫ってくる」
↓
https://kakuyomu.jp/works/16818093087557897857
カクヨムコン参加予定の最新作です。
今作と同じNTRざまぁものとなっておりますので、面白かったら応援☆☆☆などよろしくお願いいたします。
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