第122話「修学旅行二日目」

 修学旅行二日目は、自由行動だ。



「そういえば、あの後水野先生とは話せました?」

「ええ!とても!」



 木村はキラキラと目を輝かせている。

 水野にも確認してみたところ楽しかったと言っていたので、本当に盛り上がったのだろう。

 俺も席を外した甲斐があったというものだ。

 まあもちろん、木村の想いとは別の理由もあったわけだが。




「それにしても、暇ですねえ」

「いいじゃないですか、暇で」

「ですよねえ、我々が何かしなきゃいけないってのはトラブルがあったってことですもんね」




 俺達は龍安寺の手前で待機していた。

 龍安寺、というのは京都のお寺の一つらしい。

 絵里曰く、枯山水という庭が有名で、観光地としても人気なのだとか。

 いくつかのスポットに俺達教師陣がとどまり、生徒を監視する。

 それが、自由行動の制限の一つだ。

 逆に言えば、それ以外では教師の目がないということでもある。

 といっても、何も備えていないというわけではない。

 班に一つずつPHSを与えているし、何かあればそれでこちらに電話してくれれば近くにいる教師がすぐに駆け付けるシステムとなっている。



「そして何もなければ、このまま待機ですか。京都に来て、見れる観光スポットが一つしかないってのは寂しい気もしますね」

「まあしょうがないでしょう」



 俺はそういった。

 確かに悲しい気もするが、俺達は仕事で来ているのだから。

 それに、暇である方がずっといい。



「暇、か……」



 そういえば、ここ最近は暇なんてものがまるでなかった。

 ずっと目の前の仕事に忙殺されていたから、無理のない話ではあるが。

 思えば、随分と遠くまで来たものだと思う。

 最初は、元婚約者に浮気されていたことから始まった。

 失意にくれていたところに、絵里が来てくれて。

 仕事をあげるから一緒に頑張ろうと言われた。

 思えば。

 うぬぼれでなければ、彼女は俺と一緒にいたかったのだろう。

 もちろん、俺に立ち直ってもらうことが主目的であることは間違いないだろう。

 だがそれはそれとして。

 彼女は、Vtuberという全く新しい世界に飛び込もうとしていた。

 その時隣にいて欲しいのが俺だったのだと、今は思っている。

 何より、俺がそうであってほしいなと思っているのだ。



「だったら、俺がやることなんて決まってるよな」



 そう、決まっていた。

 「助手君」として、むらむら先生の機材操作と、トークの補助を担当し。

 気が付けば、カップル系Vtuberと視聴者から持ち上げられて。

 「助手君」の存在はVtuber月煮むらむらという人間を考えるうえで、欠かせないはずだ。

 コミケでも、むらむら先生と助手君の同人誌を出したりして。

 俺と彼女が一緒にいるのが当然という空気が、生まれていった。

 あるいは、俺と彼女が作り出したのか。



「これからも……」



 きっといろいろなトラブルがあるだろう。

 イラストレーター兼Vtuberという楽しくもハードな職業に就いているのがむらむら先生だ。

 炎上するかもしれない。

 過労で体調を崩すかもしれない。

 不安定な職業ゆえに、仕事がなくなってしまうかもしれない。

 それでも。

 どういう形になっても、全力で彼女を支えたいし、彼女の側にいたい。

 パートナーとして、恋人としての自負が、今の俺にはある。

 それに、いつかは。

 あと少しして、絵里が高校を卒業したら。

 人生のパートナーに……。




「先生?」

「…………」

「日高先生?」

「はっ」




 いけない。

 ついトリップしてしまっていた。

 よくないよくない。

 仕事中は絵里のことはなるべく考えないようにしていたというのに。



「どうかしたんですか?」

「いえ、なんでも。それより何かありましたか?」

「それが、生徒が一人、この付近で体調を崩したみたいで」

「それはまずいですね。俺が行きましょうか?」

「ええ、お願いします。体調を崩したのは――」



 木村はスマホを覗き込むながら、口を開く。



「月島という女子らしいです」



 俺は、手に持っていたスマホを撮り落とした。

 

  ◇◇◇


「彼女をNTRされたら、何故か彼女の妹がギャルになって迫ってくる」

 ↓

https://kakuyomu.jp/works/16818093087557897857


カクヨムコン参加予定の最新作です。

今作と同じNTRざまぁものとなっておりますので、面白かったら応援☆☆☆などよろしくお願いいたします。

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