第121話「通話の裏側」
私たちが泊っているのは、和風の旅館だ。
そのとある部屋の広縁――屋内にある縁側のような場所に、私はいる。
「はあ……」
手の中にあるスマートフォンからはじんわりとした熱が伝わってくる。
それは、長電話をして、機械が熱を持ったからであり。
世界で一番大好きな人と通話していて、心が温かくなったかだろうと思う。
あの人と手をつないだ時みたいに、じんわりと熱が伝わってくる感じだ。
少しだけ名残惜しい気もしたが、まあ仕方がないだろう。
それに、明日も通話はできるし。
何より、旅行が終わればいくらでも話せるし、触れ合うことが出来るのだから。
「絵里ちゃん、もう通話は終わったの?」
「はい、もう消灯が近いですからね」
広縁を出て部屋に戻る。
見張りを買って出てくれたわんだちゃんが、布団に寝転がったまま、私の方に声をかけてきた。
ちなみに、他の班員はこの部屋にいない。
わんだちゃんがうまく誘導して、部屋の外に出したからだ。
どうやったのかは、よくわかっていないのだが。
ただ、消灯寸前まで、下手したら消灯しても戻ってこない可能性があるらしい。
……どこに行っているんだろう?
「へー、てっきり私は消灯してからが本番かと」
「いや、さすがにそれは無理ですよ。手助さんも見回りがありますし」
「いやいや、見回りにかこつけていろいろできるんじゃないの?」
「色々?」
どういう意味だろうか。
なんとなく、くだらないことのような気がするが。
長い付き合いということもあって、彼女がくだらないことを言うときはなんとなくわかる。
「そりゃもう、深夜の旅館であんなことやこんなことを……」
「な、何を言ってるんですか!変なことなんてしません!」
少なくとも、高校を卒業するまでは。
結婚できるようになるまでは、そういうことはしないと約束している。
別に、嫌なわけではない。
興味はあるし、彼に触れたいという欲求もある。
それは、彼も同じだと思うし。
というか、男性の方がそういう欲は強いはずだし、自分の年齢が原因で手助さんに我慢を強いているという自覚もあった。
だがそれでも、一時の欲に流されて、彼がすべてを失うことだけは嫌だった。
「でもさー、真剣交際でご両親の許可まで取ってるなら、別にいいんじゃないの?」
「社会的なバッシングはどうしたってあるんですよ、わんだちゃん」
具体的には、手助さんが職を追われる可能性が高い。
彼はそうなってもかまわないし、最悪別の仕事を探すと言ってはくれているが……私自身が見たくないのだ。
だって私が好きになったあの人は、教師として誰かのために誠実に尽くせる人だから。
もしかしたら、彼が自らの意志で教職を辞めることはあるかもしれない。
けれど、それはあくまでも彼が決断して、彼自身の未来のためにやるべきことだ。
断じて、私が彼の足を引いて、悲劇が引き起こされるようなことがあってはならない。
「それに、あくまで条件付きなんですよ。ちゃんと約束は守らないといけません」
お母さんが条件を出し、私と手助さんがそれを守ると約束した。
なら、それを破ってはいけない。
私にとって、約束を守るというのは、自分の発した言葉を嘘にしてしまわないというのは、とても重いことだから。
それができない人間とは、関係を築けない程度には。
私に友達が少ないのは不登校だった時期があるというだけではなく、この性格が原因だ。
嘘を許せないという性質が、人間関係に支障をきたしうることはわかっている。
それでも、私は今の自分を曲げるつもりはなかった。
「ふーん、まあ絵里ちゃんらしいか」
「ありがとう」
わんだちゃんは、ゴロゴロと転がりながら、それでも私の意思を尊重してくれた。
「それに、じっくり関係を深めていった方がいざ一線を超えるとき燃え上がるっていう説もあるからねー」
「そうなんですか!」
私は、顔が熱くなるのを自覚する。
どうしよう、初めての時にとんでもないことになったら。
体力のある手助さんのことだ。
もしかしたら一晩中続くかもしれない。
嫌ではないけれど、果たして私の体は持つのだろうか。
「「「ただいまー」」」
「おかえりー」
「お、おかえりなさい」
がらりとふすまが空いて、他の三人が戻ってきた。
どうやら、通話を終えたのはベストタイミングだったらしい。
男子の部屋に遊びに行っていたらしい三人の話を聞きながら。
修学旅行最初の夜は更けていくのだった。
◇◇◇
「彼女をNTRされたら、何故か彼女の妹がギャルになって迫ってくる」
↓
https://kakuyomu.jp/works/16818093087557897857
カクヨムコン参加予定の最新作です。
今作と同じNTRざまぁものとなっておりますので、面白かったら応援☆☆☆などよろしくお願いいたします。
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