第119話「間男の失墜」
「我々、週刊黒鉄のものですがね」
「週刊黒鉄だと?」
その名前は知っている。
芸能人関係のゴシップ誌を取り扱っている雑誌だ。
俺の記事をすっぱ抜いた雑誌でもある。
「何の用だよ……」
「いやあ、ここが貴方の部屋なんですね!広いなあ!いったいいくらなんでしょうね」
「聞けよ!」
俺は怒鳴り散らした。
何しろ、ここは俺の部屋なのだ。
俺は、三号と四号を睨みつける。
二人とも、青い顔をして首を横に振った。
「いやあ、先日おたくを記事にしたでしょ?その時自宅も特定させてもらいましてね?」
「オートロックがかかってるだろ」
「それはまあ、我々も商売だもんで。色々とうまいやり方があるんですよ」
記者は、にやにやと笑っている。
カメラを構えたもう一人の男は、部屋中を撮影していた。
俺も、三号と四号も巻き込んで。
「お前!」
つかみかかろうとする俺に対して、記者は両手を上げて、へらへらと笑ったまま口を開く。
「いいんですかあ、こないだまで檻の中に閉じ込められていたのに、また逆戻りになっちゃいますよ?」
「グ……」
ぐうの音も出ないとはこのことを言うのだろう。
俺は、この二人に手を出せない。
未成年淫行のみならず、暴行事件まで起こせばもうどうしようもない。
加えて、親父殿が庇ってくれるかも未知数だ。
あのクズは、役者一筋のあの男は、きっと本当にこれ以上俺を支援しないだろう。
甘やかしすぎたと言っていたくらいだ。
そもそも、もう俺とのかかわりを断つつもりなのかもしれない。
そうすれば、自分の身だけは守れるとでも思っているのだろうか、愚かしいことだ。
「しっかし、君も懲りませんね。普通捕まった直後にまた女を連れ込むとか普通やります?ましてや人妻なんて」
「何?」
俺のことを知っているのは、わかる。
だが、どうして。
「三号や四号のことを、どこで?」
「いやいやそれは調べますって。まあ、提供元は貴方が六号七号と呼んでた方たちですけどね」
「な、は?」
五号だけじゃないというのか?
俺を裏切った人物は。
あり得ない。
やつらは俺を裏切るはずがない。
それは、彼女たちの人格を信頼しているから、では全くない。
むしろその逆で、取るに足りない存在であると判断しているからだった。
何しろ、こいつらは何もできない。
金を俺に貢ぐこと、身体を差し出すことしかできない。
「何で、あいつらごときが」
何か勘違いしていそうな五号以外は、俺が複数人の女生徒関係を持っていることを知っていた。
絶対的捕食者、頂点に立つ俺に尽くすだけの存在でしかないのに。
俺が一番優れているのに、俺が一番正しいのに。
どうして、俺がこんな目に遭っている?
「いやあ、彼女達も色々大変らしいですよ?どうも貴方に貢ぐためだけにご両親の通帳にまで手を付けていたとかで、ご両親が勘当しかねない勢いだったそうでね?弱っているところに少しばかりの心づけを差し出したら、全部喋ってくれました」
「それがバレたのは、お前らの記事のせいだろ!」
「ははは、それはおっしゃる通り。ですが、普段のゴシップはともかく今回の件に関しては明確な犯罪ですからねえ、少なくともあなたが被害者であるかのようにふるまう資格は、正直ないと思いますよ」
「……俺らが言うのもなんだが、アンタはただのクズだ」
「ぐっ、ぐう」
俺は、何も言い返せなくて。
感情のまま、拳を振り上げることも当然できず。
したがって、俺に出来ることはただ唯々諾々とインタビューに答えることだけだった。
◇
「くそっ、くそっ」
記者とカメラマンが帰った後、俺はいらだちを紛らわせるためにテーブルに拳をたたきつけた。
「あの、私、もう帰るわね」
「わ、私も」
「はあ、これからでしょうが、お楽しみは」
今日はストレス発散がてら二人を抱くつもりだったのに。
何を考えているんだ?
「悪いけど、なんていうか冷めちゃったのよ」
「あんな無様を見せられたら、ね」
「は?」
何を言っているんだ。
俺は何一つとして悪いことはしていなくて。
むしろ、俺を売った女どもが悪いのに。
「おい、嘘だろ、待ってくれよ」
何でこうなる?
何で失われる?
何で奪われる?
「くそがあああああああああああああああああああああああ!」
一人になったマンションの一室で、俺は叫ぶことしかできなかった。
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