第102話「間男の破滅」
「どういうことなんだ?」
俺は、ひとりごとを口から漏らす。
つい昨日まで順風満帆だったのだ。
いつも通り、女を連れ歩き、金を貢がせる。
何の問題もない、普段通りの生活。
それが、突然破綻した。
「なんなんだよ、これは!」
俺は、とある週刊誌を地面にたたきつけた。
そこには、「有名俳優の息子、未成年略取!」という見出しがでかでかと載っていた。
そこには、俺が六号や七号と歩いている写真が掲載されていて。
目線を隠されている六号七号と違い、俺の顔は完全にさらされている。
俺自身はともかく、父親は名の知れた俳優。
記事に需要があるのは理解できる。
しかし、俺の方をターゲットにしてくるとは思わなかった。
いったいどうして?
かなり注意していたし、父親に業界人特有の店なんかを紹介してもらっていたはずだが。
「もしかして」
女たちの誰かが裏切って情報を流した?
全員、店の場所は知っているから撮影することは容易だっただろうし。
問題は、果たして誰が裏切ったのか、だが。
「五号か……」
歯ぎしりが止まらない。
せっかく女の一人に選んでやった恩を忘れて!
本当にふざけている。
俺は誰よりも優れている。
持って生まれた才能だけで女を従え、金を吸い上げ、誰よりも上に立っている。
そんな俺を、罠にはめるだなんて、身の程知らずにもほどがある。
そもそも、彼氏がいるような女に手を出したのがよくなったのか?
男が、本命がいることも知らずに、俺の金のためにあくせく働いていたら面白いなと思っただけなのに。
ついでに俺の子を産ませて、托卵したら楽しそうだなと思ったというのに。
「くそっくそっ、とりあえずこういう時には一号に相談だ」
一号。
元々女優で、今は主婦をしている。
そして、俺の最初の女であり、俺の知恵袋でもある。
女を使って金を集めてくるように提案したのも、関係がバレないように業界人御用達の店を父親に紹介するよう指示したのもこいつだ。
俺より年上であり、はっきりいって身体にも飽きているが、これまでの女たちのように捨てていないのはそういう理由である。
3コール目でようやく出た。
「あら、ごきげんよう」
「……週刊誌を見たか?」
「ええ、あの人のスキャンダルが出た、と思ったらあなたの方なんですもの。びっくりしたわ」
「そうだね。でもさ、ここからの打開策、君なら思いつくんじゃないの?」
彼女なら、俺に思いつかなかったような作戦を考えてくれるはずだ。
「ないわね。というか、仮に何かあったとしても教える義理はないわ」
「……は?」
「元々私は貴方の顔だけが好きだったから一緒にいたの。顔だけはあの人と同じだったから。まあ、あの人は君と違って堅物で、奥さん以外に興味を示さないような人だったから、致し方なく君で我慢してあげてたけどね」
「何、言ってるんだよ」
俺の方が顔は美しいし、若さだってある。
それに泥をすするようなみじめったらしい努力をして業界にしがみついている父と違い俺は才能とカリスマ性だけでここに君臨している。
俺の方が、あんな父親よりずっと優れているはずなのに。
まるで、俺の方が父親の劣化版だとでも言いたげだった。
「それに困るのよね。だって君から私のことまでたどられたら、それこそ身の破滅だし。私には夫も子供もいるわけで。一応これでも仲のいい夫婦でやっているのよ?私達」
「…………」
それは知っている。
だからこそ、お互いに割り切った関係であるはずだった。
けれど、これはまずい。
それは、俺にもはっきりと感じ取れた。
「だからね、申し訳ないんだけれど」
「おい」
「スキャンダルが出た時点で、貴方を放置するデメリットが大きすぎると判断したの。だから、ちょっと細工をさせてもらったわ」
「は?」
ピンポーンと、音が鳴って。
見ると、ドアの向こうには六号と七号がいた。
しかたがない。
こうなったら、こいつらの力を借りてどこか遠くに逃げることにしよう。
そうだ、海外に逃げればいい。
外国にも父親の別荘があったはず。
資金の調達を女どもにやらせればいい。
そう思ってドアを開けて。
「警察のものですが」
六号と七号の後ろから現れた警察手帳を構えたスーツの男が。
「ごめんなさいね、私もために、貴方を潰すのがベストと判断したの。ちなみに、このアプリの通話記録、自動的に消えるようになってるから」
頭が真っ白になった。
GAME OVER
◇
これにて二章終わりです。
次回3章。
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