第100話「エピローグ いつかきっと、ご報告を」

「……帰りましょうか」

「そうだな」



 花火も終わって、特に話すこともなくなっていた俺たちは帰路についた。

 帰り道、俺達はほとんど話をしなかった。

 何を話せばいいか、何から話すべきか。

 俺にもよくわかっていなかったからだと思う。

 一つ、確かなことがあるとすれば。

 その間、俺達はほとんどずっと手をつないでいたことだ。

 どちらから言うでもなく、自然とそうなっていた。



「それで、なんですけど」

「うん?」

「いえ、母にどうやって報告するべきかと思いまして」

「うーむ」



 確かに付き合うことになった以上、理恵子さんにも報告しなくてはならない。

 これは義理とかそれ以前の問題であり、法律的に理恵子さんの許可が取れなければ俺は犯罪者になってしまう。

 


「あの、多分母も先生のことを嫌ってはいないと思うんです。ただ、あの、私母とこういう状況に関して話し合ったことは一度もなくて」

「まあそうだよね」



 俺も当然だと思う。

 未成年が成人男性と付き合うシミュレーションを親としていたら何かがおかしいだろう。



「母は、認めてくださるでしょうか」

「正直わからない」



 俺としても、そこは酷く不安だ。

 嫌われているとまでは思わないし、むしろ交換を持たれていると思う。

 だがそれが娘の彼氏になったとなれば話が変わってくる可能性がある。

 というか、俺なら絶対に嫌だ。

 とはいえ。


「だとしても、誠心誠意伝えるしかないとは思う。それ以外に出来ることもないしな」

「うん、そうだよね」



 俺達は覚悟を持って、月島家の門をくぐった。

 


 ◇



「あらそう、思ったより遅かったんですね」

「えっ」

「えっ」



 緊張しながら俺と月島は、理恵子さんに交際をスタートした旨を報告したのだが。

 あまりにもあっさりした反応で、俺は拍子抜けしてしまった。



「正直、私としてはいつ付き合うのかと思ってましたからね。ようやくか、というのが近いような気がします」

「うう……」




 隣の月島は顔を真っ赤にしている。

 正直、かなりかわいい。



「とはいえ、何も条件を付けないというのもよくないわね」

「条件、ですか」

「そうね、一つには絵里が高校を卒業したら結婚すること、というのはどうかしら」

「お母さん!」

「俺は大丈夫ですよ」

「先生まで!」



 少なくとも、俺は



「絵里、これははっきりさせておかなくてはいけないことなのです」

「え?」

「真剣交際であれば、何も問題はない。であれば、真剣に交際をしていただく必要があります」

「でしょうね。俺も、遊びで付き合ってるつもりはないですけど」

「それはよかった」



 理恵子さんは、頭を下げてきた。



「先生、いえ、手助君」



 あえて、なのだろう。

 彼女は、俺の名前を読んだ。

 


「どうか、この子をーー私の娘をよろしくお願いいたします」



 そうか。

 理恵子さんは。

 俺に託したいと思ってくれていたんだ。

 彼女との付き合いも、月島と同じくらい長い。



「任せてください。月島のこと、全力で幸せにします」

「ええ、お願いします」

「ああそれと」

「なんでしょう?」

「高校卒業するまで、子供は作らないようにね。卒業したら、好きにしたらいいわ」

「お、お、お母さん!」

「絵里、ちゃんとそう言ったことに関しても話し合わないとダメよ?男女交際なんだから」

「わかってるよ!わかってるけれども!」




 月島は顔を真っ赤にして頭をぶんぶんと振った。

 正直めちゃくちゃ可愛らしいし微笑ましいのだが。

 それと同じくらい、めちゃくちゃ恥ずかしい。

 なんなのだろう、これは。

 思春期男子でもあるまいに。



「それと、最後にもう一つだけ」

「まだ何かあるの!」

「あるわよ、言いたいことなんて無数にあるんだもの」

「それはそうかもだけどさあ」



 理恵子さんは、椅子から立ち上がると。



「二人とも、付き合うことになったのに、苗字で呼び合うのはちょっとよそよそしいと思うわよ」



 そう言って、リビングから出ていった。

 あとは、若い者同士で、とでも言いたげに。


 

 ◇



 俺も月島もそれぞれ入浴し、寝間着に着替えた。

 ちなみに、月島から「一緒に入りますか?」と言われたが、鋼の意思をもって断った。

 さすがに、いくらなんでもそれはダメだ。

 俺の理性が完全に決壊してしまう。

 理恵子さんとの約束も、俺は守らなくてはいけないのだから。

 



「とりあえず、許しは貰えたっていう認識でいいんですかね?」

「そうだな。本当に良かった」



 緊張が解けたせいか、二人ともぐったりとソファに寄りかかっている。




「いずれ、視聴者にも報告できたらいいなあ」

「それはそうですね」



 その後、話し合って、配信上で報告するのは籍を入れてからにしようということに決めた。

 U-TUBEにおける二人のファンは、二人の強固な関係性をこそ求めている。

 ならば、恋人ではなく夫婦になってから報告したほうがいいと考えたのだ。



「じゃあおやすみなさい、手助さん」

「ああ、おやすみ、絵里」



 まだ口になじまない互いの名前を、呼び合って、それぞれの寝室に戻った。

 ちなみに、あまり寝つきはよくなかった。



🔸



 まだ続きます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る