第87話「客としての雑感」

【コミケと言えば先生たちは何か買った?】



「ええ買いましたよ。結構早くに完売してしまったので、意外と自由な時間は多かったのです」

「そうなんだよなあまさか一時間で売り切れるとは」

【一時間で売り切れたの?】

【買えなくて悲しかった】

【まあ同人誌自体はまだ買えるから……】



「それで、私達はまず私の好きな作家さんの同人誌を買いに行きました。何を買ったのかは言いませんけど、ゲームに関する同人誌とだけ言っておきます」

「ていうか色々買ってたからなあ。この場で一冊一冊語ってたら朝になっちまう」

「あはは、それはそうかもですね。助手君には荷物持ちをお願いしちゃいました」

「いやいや、俺としても新しい世界が見られて助かったよ」

 


 ああいう状況でないと、わざわざ全年齢対象の同人誌を読もうと思わなかっただろうしな。

 今後は興味を持っておきたい。



「あとは、むらむら先生の同人誌を買ったぐらいか」

「一応見つけた同人誌は片っ端から買ったんですけどね。もしも見落としてたらごめんなさい」

【ちょっと待ってくれ】

【原作巡回済みってこと?】

【18禁なかったっけ】

「18禁に関しては代わりに俺が購入しました。女子高生に買わせられないのでね」

【女子高生()】

【きっと何回も留年してるんやろなあ】

「なんですか?何か言いたいことがあるならはっきり言ってくださってもいいんですよ?」

【何も言ってないよ】

【ソンナワケナイジャナイデスカ】



 むらむら先生、好きなアニメや漫画が俺の影響を受けていることもあって、女子高生だと思われてないんだよな。

 インターネットを漁った感じでは二十代後半と思っている人が大半だった。

 彼女が表に出てこない以上、これに関しては解けない誤解ではある。

 なのでむらむら先生が18禁同人誌を読んでいたとしても対外的は問題はなかったりする。

 まあ、実情を知っている俺たちからすれば問題しかないのだが。



「色々ありましたねーギャグからえっちなものまで」

「むらむら先生だけじゃなくて俺やわんださんが出てくるやつもあったよな」

「ああ、三人でピクニックに行くやつとかねー。面白かったです」




 とはいえあんまりエロありきで話をするのもいかがなものかと思うので俺はうまいこと月島を健全な方向へと誘導する。

 正直健全な同人誌の方が多かったからね。

 良くも悪くも刺激的だったR18とは異なり、全年齢版はゆったりとした雰囲気の作品がほとんどだ。

 あれはあれでいい。



【助手君がむらむら先生のエロ本を見てどういう気分になったのか気になる】

「おっと」



 まずい、むらむら先生が見る前に非表示にしなくては。

 この場で尋問されてはたまったものではない。



「確かに、それは私も気になりますね。助手君、どうだったんですか?」

「むらむら先生!?」



 俺は慌てて月島の顔を見る。

 月島は俺に微笑みかけている。

 微笑んでいるが、目が全く笑っていない。

 正直に言えよ、と彼女の目は口よりよほど雄弁にものを語っていた。



「いやあのほら、いくつか作品があったじゃん。だからどう思ったのかは簡単には説明できないというか」

「いいですよ、別に。各作品ごとにどう思ったのか言ってもらっても」

「いやでもほら、あれがあれでだな」

「助手君?」

「ええと」



 どうしよう。

 これどっちで答えても角が立つんだよな。

 ブランディング的にはここはうまくごまかすのが正解だ。

 いくら助手君とむらむら先生がカップルチャンネルとして扱われていると言っても、あくまでそれはエンターテインメントとして。

 生々しい部分を見せて欲しくないという人が大半だと俺は見ている。

 両親のことは好きだし仲良くしてくれているのは嬉しいと思っていても、二人の情事を見たい子供がいないのと同じことである。

 けれど。

 むらむら先生の前で、嘘を嫌う彼女の隣に立ちたいと思っているのであれば。

 嘘は絶対に言ってはいけない。



「正直、全部とてもいい作品だと思った。むらむら先生への愛を感じたし、ついでに助手君を愛してくれてる作品もあって感謝に耐えない」

「……なるほど」

「だからまあ、嬉しかったってのが一番だと思う」

「それは、私もそうですね」



 月島も、穏やかな笑みを浮かべている。

 顔には、「仕方がないなあ」と書いてあった。

 どうやら納得してもらえたらしい。

 よかった、何とかなったと安堵する。

 こんな形で、月島に対して抱えている感情の一端を見せたくなかったのだから。



「あとまあ、興奮したのかどうかを聞きたい人がいると思うんだけど、正直俺自身が出てたりしたし、それはさすがに厳しいと言わせてくれ。液晶に自分の顔が映るようなもんだ」

「んふふっ」

【あっ】

【それはガン萎え】

【なんかわかってしまうのが嫌だ】



 そんな冗談を交えつつ、配信を進めていったのだった。



 ◇



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