第58話「合宿とかいう謎のイベント」
突然だが、合宿というものをみんなはどう思うだろうか。
基本的には泊まり込みで何かをすることを指す。
勉強だったりスポーツだったり、あるいは運転免許だったり。
短期間で集中することで効率を上げるという
好き嫌いの話はおいておこう。
ここで俺が論じたいのは、効果があるのかという点だ。
結論から言えば、間違いなくある。
特に短期的に結果を求めるのならばやるべきだ。
創作界隈においても、合宿、というかそれに近いものがある。
缶詰、と呼ばれているものだ。
具体的には、ホテルや出版社に作家が閉じ込められ、強制的に捜索をしなければならないという状況へと追い込むらしい。
なかなか恐ろしい話だ。
もっとも、これは昔の話であって。
今はそんなことはあるはずがない。
そう、思っていた。
「合宿、やりまーす」
「んえっ」
「ほう」
「進捗がよろしくないからね、缶詰でブーストをかけていきましょう」
「ひえっ」
夏休みも既に二週間が過ぎた。
その間、俺と月島は頑張った。
補習の合間を縫って漫画の作業をする月島と、彼女が集中できるよう家事を全力でこなし、見守ってきた俺。
しかし、結果としては進んでいないのが現状である。
むらむら先生がさぼっていたわけではない。
補習が多すぎて作業時間が確保できなかったというわけでもない。
授業が終わり次第、すぐに帰宅して漫画を描く。
一度休憩をはさみ、作業配信を開始。
そして作業配信を終えたら、お風呂に入ってまた作業に戻る。
そんなハードな生活を続けていたわけだが、漫画はあまり進んでいなかった。
というか、行き詰っているらしい。
「私とわんだちゃんの方はもう大体描けたんですけどね……問題はなんというか、私と助手君の方で」
「何が問題なんだ?」
「構図とか、展開とか、ストーリーとか、とにかく全然……」
理由はわかり切っていた。
むらむら先生とわんださんの同人誌は、かなり前から計画されていたらしい。
それこそ、Vtuberデビューする前からこういう作品を創って売り出そうというプランを、わんださんと話し合っていたらしい。
準備期間で言えば、半年に及ぶのだとか。
対して、俺とむらむら先生の同人誌はどうか。
そもそも、思いついたのは二週間前のこと。
「だから、私達で合宿をやるのさー」
「ここからさらに追い込むのか?」
俺は顔をしかめた。
月島はよく頑張ってくれている。
むしろ、俺とむらむら先生の同人誌を没にして、わんださんとむらむら先生の同人誌だけで良しとすればいいのではないか、と思っているのだが。
「ちょっと違うね。どっちかというと誰も邪魔が入らない状況でインスピレーションを得るための合宿だよ」
「そうか……」
息抜きというのなら、悪くないかもしれない。
何しろ、月島は昼は補習、夜は作業配信+作業というブラック企業も真っ青の過酷労働生活を送っていた。
ここらで休養するのも大事だろう。
問題は。
「月島は、大丈夫か?」
月島が旅行に耐えられるかどうかだ。
そもそも、彼女はあまり家から出ない。
外出するのも学校以外はほとんどないはずである。
まして、この二週間の重労働で相当疲れているはずなのに。
「大丈夫です。私は、絶対にやり抜いて見せますから」
「わかった……信じるよ」
彼女の言葉を疑うという選択肢はない。
ならば、やるしかないのだろうか。
「というわけで、今日は荷物の整理をして、明日から向かうよ」
「え、俺聞いてないんだけど」
「あれ、そうでしたっけ?」
「わんだちゃん、日高先生に説明してなかったんですか?」
「あー、絵里ちゃんが説明しているとばっかり」
ここまで来て、参加しませんというわけにもいくまい。
「行くよ。それで、合宿で何をするんだ?ただ漫画を描くだけなら何も変わらないと思うが」
「もちろんそこは私も同意見です。スランプを覆すには変化が必要なんですよね―」
ぴんっと人差し指を上に立て、わんださんはこう宣言した。
「というわけで、絵里ちゃんにはは海で泳いで遊んでもらうよ」
「……なんで?」
「ふえ?」
俺は頭を抱えた。
月島は、わけがわからないと首をかしげていた。
かわいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます