第54話「助手君はなんかやらないの?」

ふと、そんなコメントが目に入ってきた。



「いいや、あくまでも俺はサポートだからな。あと……俺は創作とかできんし」



 慌てて否定に入る。

 放置するとなんだか俺まで同人誌制作する流れになりそうだし。

 まあ、それ以前に一番重要な理由があるんだけど。



「俺が参加したら、むらむら先生の同人誌にならないだろ」

「そういえばそうですね」



 それに俺はVtuber月煮むらむらの相方であって、クリエイターじゃない。

 そういう意味でも、俺が何かを作るのは不適切だ。



「ぶっちゃけ助手君が描いてくれたらページ数が半分になるんですけど……」

「それでむらむら先生単独のファンが納得すると思うのか?」

「しません……」

「スープを水で二倍に薄めて同じ値段で販売したら詐欺だと思わないか?」

「思います」

「よーし」


「うーん、でも、助手君が全く絡めないのは悲しいんですよね」

「そうは言うけど、俺普通に売り子やるつもりだったんだけど、それじゃダメか?」

「それはありがたいんですけど、そういうことではなくてですね。コンテンツの中に助手君を入れたいなって」



【先生が助手君×先生の同人誌を出せばいいのでは?】

「は?」

「……ほほう」



 ……おい。

 それはまずいって。

 ただでさえカップルチャンネルだの結婚しろだの言われてるのに。

 SNSでは、50万人記念配信の影響で、やたらとウェディング衣装のファンアートがあがってるし。

 そんなものを公式が発表したら。



【買います】

【頼む、出してくれ】

【何でもしますから ¥30000】

「ちょ、ちょっと待ってくれよみんな。スパチャしてるやつも落ち着いてくれ?な?」

「いいですね」

「むらむら先生?」



 お前つい最近、わんださんとむらむら先生の同人誌にするって言ってなかったか?

 ストーリーとかも出来上がっているものだとばかり思っていたのだが。

 それを没にするのは流石にまずくないか?



「元々わんださんと私の同人誌だけではボリューム、ページ数が若干物足りないのかなという気はしていたんです。ちょうどいいかなと」

「な、なるほど」



「いやでも、それだと作業量が倍に」

「何とかなりますよ、何とかします」

「…………それは、でも」

「助手君」



 俺は、右側を見た。

 画面に映っている金髪の少女と、隣にいる黒髪の少女を、同時に視界に収める。

 四つの目は、輝いていた。

 ずっと見てきた。

 絵を描くとき、あるいはそれについて語る時。

 彼女の目は、生き生きとしている。



「…………」



 俺はクリエイターのことはわからない。

 けれど、何かに夢中になった経験ならある。

 だから、彼女が夢中になっているものを遮りたくない。

 彼女の、力になりたい。



「じゃあ、俺も腕によりをかけて家事をしなくてはいけませんね」

「はい、お任せしますよ」

「あと、作業管理もやらせてもらうぞ。とりあえず、しばらくゲーム禁止な」

「ぎくっ」

「……気分転換にもなるしいいかなと思ってたけど、そこまでスケジュール的に余裕があるなら見過ごせないからね」

「は、はい……」

【しっかり詰められてて草】

【やはり助手君が左側か】

【いや、逆転してるだけの可能性もあるから】



 改めて、俺はむらむら先生に、支えるものとしての覚悟を告げる。

 彼女が厳しい道を行くつもりなのなら、俺だって厳しくさせてもらう。

 というか、俺が左か右のどちらかにいる前提での議論辞めて?

 俺達は別に付き合っているわけではないからな?

 今更毎回訂正するのも疲れるから言わないけども。



「うーん、コメントを見る限り、助手君を攻めにするべきですかね?」

「むらむら先生?あなたまでそれを肯定し始めたらもう終わりだからな?そもそも先生は全年齢以外描かないんじゃなかったか?」

「まあ、女子高生系Vtuberでもある以上エッチなものは出さないけど……」



 そこで、月島は言葉を一瞬だけ溜めて。



「やっぱり微エロくらいならいいかなって思って」

「俺と先生で何を描くつもりだ!?」



 あんまりヤバいもん描かれたら恥ずかしさで死ぬ!

 俺、当日売り子やるんだぞ?

 なんで自分が登場するえっちな本を頒布するなんて羞恥心で自害してしまう。



「だめですよ。ここで言ったらネタバレになっちゃうし、何よりえっちすぎてみんな倒れちゃいますから」

「内容については不健全にならないよう、検閲させてもらうからな?」

「ええ!?」

【草】

【そりゃそうでしょ】

【竿役デビューおめでとうございます!】



 こうして、なぜか俺は教え子の作品に出演することになった。

 おかしい。

 Vtuberになる教え子をサポートするだけだったのに、いつのまにやらとんでもないことになってしまっている。

 何より危惧するべきは、公式からそういう同人誌が出ることによって、他の同人作家たちが俺達の二次創作を描くことだ。

 もし、俺たちの十八禁本があることを感知してしまったら、俺は正直冷静でいられる自信はないよ。

 発狂しかねない。

 ただまあ。



「それでむらむら先生がやる気出してくれるなら、まあいいか」



 あと、竿役デビューって言ったやつ。

 名前、覚えたからな。



 

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