第47話「助手と先生」

「さて、と一応ラフだけになっちゃうけど描けはしたね」

「コロシテ、コロシテ……」

「いやあ、いい作品が作れましたなあ!」

「コロシテ、コロコロコロコロ……」

「助手君大丈夫ですか?」



 俺の眼前には、ウェディングドレスを着せられた「助手君」の姿があった。

 引退しようかな、いや本当に。

 そういいたくなるレベルで、地獄だった。


【ああまあうん】

【おいたわしや助手君】

【そりゃ女装は嫌がるよなあ】

【なんかごめん ¥2000】



「いやまあ、いいんだけどね?ただ俺の関わっている画面が地獄絵図なのが許せないというか」

「そんなにひどいですか?」

「まあぶっちゃけイラスト自体はいいんだけどなあ」




 むしろイラストのクオリティが高すぎるからこそ、悍ましさが際立つような気がする。

 


「いやいや、女装男子って人気あるんですよ?助手君にはわからないかもしれませんけど」

「いや、俺はその辺あんまり知りたくないので……」

「ともかく、次は私の新衣装ですね」

「おっ、そうだな」



【タキシード】

【↓ 助手君】

【タキシード】

【タキシード】

【タキシード】

【タキシード】

【タキシード】



「ちょっと待て」

「何ですかこれ?組織票?」



 俺の時は、問題のある衣装を上げつつも、みんながてんでバラバラの服を書き込んでくれていた。

 だがむらむら先生に対してはその逆。

 どうして、と思ったがコメント欄を見てすぐ理由に気付いた。

 



【結婚式をやってくれ!】

【そりゃ助手君がドレスなら消去法でそうなる】

【バーチャル披露宴会場はここですか?】



 なるほど、俺がウェディングドレスだったから、相方の


「まあ、いいんじゃないですか、タキシード。男装女子も人気のあるジャンルですからね」

「それはそうかもしれんけどな……」



 俺達は別に付き合っているわけでも、結婚しているわけでもなくて。

 だというのに、こういうのはどうにも。

 落ち着かない。

 肩が触れ合うほどそばにいる月島のことが、どうにも気になってしまう。

 嫌とか不快とかではなく、もっと単純に気恥ずかしさが勝ってしまう。

 落ち着かなくて、水を飲もうとして。



「じゃあ、本当に結婚しちゃいますか?」

「ぶふっ」



 むせた。

 


「げほっげほっ」

「助手君大丈夫ですか?」

「ああ、うん、全然大丈夫だよ」

【クッソ動揺してて草】

【珍しく助手君がデレてる】

【珍しいか?】

【普段からデレデレだぞこの人】



 なんだかコメントで好き放題言われているような気がする。


「ともあれ、描いていこうかな。それこそ、助手君が嫌がるようなことにはならないだろうしね」

「まあ、かわいいもんなむらむら先生は」

「…………」

「一応言っとくとアバターの話だからな?」

「え、あ、ああそうですよね!それはそれで嬉しいですけど、あくまで私の描いたイラストの話ですよね!」



 月島が隣でニヤニヤしながら体をくねらせる。

 腕が、肩が俺の体に当たる。

 俺は心を無にし、OBSの操作に全身全霊を注いだ。



【反撃食らってて草】

【照れるあまり言葉失ってるの面白いな】

【やっぱりこの二人最高だよ】




「しかし、これだけ反響があるなら、本当にウェディング衣装でいいような気がしませんか?」

「せめて俺がタキシードでむらむら先生がウェディングドレスにしないか?そうしたら少なくとも地獄からは解放されると思うんだけど」

「ええー、せっかくだからネタに振り切ってみませんか?」

「新衣装一発目からネタに振り切るのは勇気ありすぎるだろ」



 そういうのは色々試したうえでネタ切れが起こってから試すもんだと思うけど。

 ちなみにわんださんとかは部屋着、夏服、着物など無難かつオシャレな新衣装ばかりである。

 


「まあ確かに初手ネタ枠だと、二つ目以降変な意味で期待値上がっちゃいますよね」

「そうだぞ。多分三つ目とかアヒルの首がついた全身タイツとかになるって」

「ぷふっ、全身タイツ、それはちょっと気持ち悪いかもですね、あははははは!」

「そりゃそうだろうよ。ははっ!」



 気づけば、俺も月島も自然と笑っていた。

 声を出して笑うのが、久しぶりであることに気付く。

 本当に、どこまで与えてくれるんだろうか、この人は。

 ナチュラルに新衣装を作ることは決定しているみたいだし。



「じゃあ、ウェディングドレスを私が着ることにしましょうか?助手君は私のウェディングドレス見たいらしいですしね?」

「いや別に見たいとは言ってないけど」

「見たくないんですか?」



 月島が首をかしげる、画面に映る金髪の女の子の首が傾く。

 同時に、艶のあるさらさらした黒髪が流れるように揺れる。

 


「……見たいです」

「正直でよろしい!」

「先生には嘘をつかないって約束したからな」

「あはは」

 


 ◇


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