第41話「親子三人でしたいこと」
俺は二つ目のマシュマロを取り上げた。
【親子三人でしたいことって何かありますか?】
「そもそも俺たちは親子じゃないんだよな。いや、むらむら先生とわんださんは別だけど」
「いやいや、助手パパはパパじゃん!」
「全然違うけどね?」
「まあまあ、この三人でしたいことを考えればいいじゃないですか。それに結構、難しい問題ですよ?これは」
「そうなのか?」
ゲームでもすればいいと思うんだが。
「考えてほしいんですけどね、ぶっちゃけ三人でできるゲームとかってあんまりなくないですか?」
「あっ」
「あっ」
言われてみればそうだ。
一人用のゲームならいくらでもある。
二人用のゲームや、四人で遊ぶことを前提にしたゲームも多数存在する。
しかしこれが、三人用となると難しい。
パーティゲームとか大抵四人用だった記憶がある。
となると、かくなる上は。
「四人用のゲームを使って、残り一人は視聴者さんに入ってもらうのがちょうどいい気がするな」
「確かに、それならリスナーにも楽しんでもらえるしいいですね!」
「四人用のゲームって何があるかな。麻雀とか?」
【麻雀いいな】
【むらむら先生打てるの?】
【NPCとかでもいけるよな】
【わんだちゃんあんまりやってないけどFPSとかなら三人用とかもあるけどね】
【FPSは難しそうだな……】
コメント欄も盛り上がっており、話題はゲーム以外へと移ろうとしていた。
「ゲーム以外だとお絵かきコラボとかもやってみたいですね」
「うげ」
「うわ」
「何でそんなに嫌がるんですか!?」
わんださんが今日初めて明確に嫌そうな声を出した。
先ほどまで高かったテンションが三段階くらい下がっている。
「いや、だってなあ、ぶっちゃけ考えて欲しいんだけどプロ絵師と一緒にお絵かきはきついって」
「私も絵は描けないわけじゃないけど、ママの隣で描くのは緊張するよー」
「そ、そんなこと気にするんですか?」
【まあ気持ちはわかる】
【イラストレーターとしては国内でもトップクラスだもんな】
【わんだちゃんがデビューするとき、むらむら先生の名前がトレンドに入ってたもんなあ】
これはむらむら先生が悪いということではないんだけどね。
むらむら先生の隣に俺の棒人間を書き始めたら「穢れる」とか言われて炎上する可能性すらありうる。
「まあでも、先生に絵を描くのを教わるって配信にするのはいいかもな。むしろ、俺達がうまくないってのを活かせるし」
「おー、それいいね、私も教わりたい!」
「え、ええ?私指導とか全然できないですよ?」
「「そこをなんとか!」」
「むう、二人がそこまで言うなら検討しますけど……やるとは限らないんで視聴者さんもあんまり期待しないでくださいね?」
【はーい】
【のんびり待ちます!】
「うむむ」
「どうかしたんですか?わんだちゃん?」
「マシュマロには親子三人って書いてたよね?」
「親子ではないけどな」
「助手君とわんだちゃんは親子じゃないですけどね」
【仲良しだなあ】
【息ぴったりで草】
わんださんが親子であるという既成事実を作ろうとしているようなので、我々は断固として打ち消している。
既成事実、ダメ絶対。
そんなものが広まってしまったら、むらむら先生のブランディング的にも悪影響し、何より事実無根過ぎて良くないと思うよ。
「それで、何が言いたいんだ?」
「いやあ、正直親子三人なんだし、親子っぽいコラボができないかなと思ってねー」
「親子っぽいコラボってなんだよ」
「うーん、なんだろうね」
親子っぽいと言われてもよくわからない。
家族でユーチューバーになっている人もそんなに珍しくないので、そういう人たちを参考にするべきなのだろうか?
あとで調べてみてもいいかもしれない。
【三人でオフコラボとかになるんじゃない?】
「おっ、オフコラボかあ」
「…………」
「えっ」
それはまずい。
俺はまだ、女性とオフコラボできる状態ではない。
通話ならいい。
相手との距離が遠いから。
直接あっていても離れていればいい。
だが、オフコラボは。
機材の関係上、どうしたって近づかなくてはいけない。
二週間ほど前に婚約者に対して向き合った時もビデオ通話だった。
逆に言えば、直接女性と近くで話すのは難しい。
理恵子さんとやりとりをするときも、基本的にはRINEでしてもらっているし、本当に必要な時も離れて話している。
しかし、視聴者的にはいい企画なようで。
【確かに、それはいいかも】
【親子三人で仲良くおしゃべりするだけでも楽しい】
【カラオケコラボとかやってもいいんじゃない?】
【料理配信を三人でやるとか?】
【楽しそうだなあ】
まずい。
完全にコメント欄が盛り上がってしまってる。
いや、リスナーは悪くない。
彼らは俺が女性に接しただけで吐くことを知らない。
浮気されたことなどは話したが、それについては説明していない。
だから仕方がない。
そしておそらくはわんださんも知らない。
むらむら先生の活動については本人から聞いて知っているだろうし、俺がその仕事を手伝っていることはわかっているだろう。
が、俺の個人的な問題までは理解していないと考えるべきだ。
「えーと」
女性恐怖症であることを言うしかないか。
それを言うことによって色々反発が起きる可能性もあるが、言わなくてはならない。
「だ、だめです」
「えー、なんで?」
「助手君には、私以外の女性と会ってほしくないです」
「えっ」
「はっ」
言いたいことはわかる。
俺を心配しての発言だろう。
ただそれは別の解釈をされるというか……。
「ふあああーっ!ママかわいい!」
【嫉妬かわいい】
【てぇてぇすぎる】
【もう結婚しろよ】
俺が内心で慌てる中、月島は、マイクを指差してきた。
合図の通り、ミュートにする。
「嘘はついてませんから」
「……ああ、ありがとう」
時間にして二、三秒程度の空白。
そうだな、全部わかってる。
彼女が善意で言ってくれたことも。
建前が、本音であることも。
「じゃあ、次のマシュマロいきましょうか」
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