第39話「家族って何?」
【もし、この三人が家族だったら、それぞれどのポジションにつけると思いますか?】
これはまたヘビーな質問だ。
誰だよこんなの選んだやつ。あ、俺だった、素で忘れてた。
なんか、最近記憶や意識が飛ぶことが多いんだよね。
疲れてるのかな?
「これ、先生はどう思う?」
今回の配信の流れとしては、俺が司会としてトークを回すことになっていた。
まずは、むらむら先生に話を振る。
「うーん、わんだちゃんは娘であることは大前提として、助手君は私のサポートをしてくれる人ですからね、そう考えると、弟とか、お兄ちゃんとかになるんですかね?」
「その二択だと、お兄ちゃんがいいなあ。サポートだけじゃなく、機械の使い方を教えたりもしてるんで、弟感はないだろう」
「た、確かに……助手君、イラストに興味はないですか?何でも教えますけど」
「いや、今のところ絵を描く気はないので大丈夫」
「そ、そんなあ」
【掛け合いが楽しい】
【ほんとに兄妹かな?】
【義妹なら結婚できるんやで】
ここはお互い慎重に言葉を選ぶ。
盛り上がるだろうと思って可燃性の高いマシュマロを拾ってしまったが、別に炎上がしたいわけではない。
こういうのはほどほどに話を盛り上げつつ、決して炎上しないように立ち回らなくてはならない。
コメント欄は盛り上がってくれてるけどね。
何だか新しい概念を生み出してしまったような気もする。
「ふーん、助手君が機械の扱い教えたって、OBSの扱いとか?」
「いや違う。俺が教えたのはタブレットとかの使い方。それまでは、ずっとあなろぐでやってたから」
「そうなんですよ。タブレットの使い方とかデジタルでのイラストの描き方を教えてもらったんです」
「えっ、じゃあ助手さんもイラストを描けるんですか?」
「いえ、俺は操作方法を教えただけですよ」
イラストは描けなくても、操作方法のマニュアルとかを調べれば使い方を説明することはできる。
……めちゃくちゃ苦労した。
かなり、時間はかかったけど、まあ仕方がないだろう。
SNSで調べると、俺を陰の功労者扱いしている人もいたりする。
まあ、彼女がイラストレーターとして成り上がってきたのは彼女の才能と努力、あとは運が生み出した結果である。
「じゃあ、わんださんはどう思う?」
といっても、彼女の答えは大体聞かなくてもわかりきっているんだが。
あくまでも、配信としての体を整えるようなものである。
すうっと息を吸い込んで、わんださんは発言した。
「助手パパ!」
「パパあ?」
「そう、ママとパパですよ」
「「すうーっ」」
【あっ】
【助手君胃を痛めてそう】
【むらむら先生顔真っ赤にしてそう】
つい声が漏れてしまう。
ああ、そうか。
俺と彼女のカップリングを考えるのであれば、当然わんださんというむらむら先生の娘さんは俺の娘ということにもなってしまう。
なんだか変にリアリティが出てしまうと、恥ずかしさが増す。
「いやあ、俺達別に夫婦とかじゃないですからねえ」
「いやいやあ、私達は三人家族でしょう。ねえ、ママ」
「いや、あの」
「嫌なの?」
「嫌とかじゃないんですけど、ただ気恥ずかしいというか照れくさいというか」
「まあ、いいんじゃないですか?」
「助手君?」
「うおおおおおおおおお!言質取ったぞ!」
【つまり、先生と助手君が結婚するってこと?】
【認知しちゃったよ】
わんださんも視聴者の皆さんも大喜びである。
「別に結婚するわけじゃないですよ。まあ、普通に娘として接することはありますよねっていう話で」
「ふーん、なるほどね」
月島の声のトーンが一段下がった。
何だろうか。
それにしても。
「子供かあ」
「どうかしたのー」
「いや、なんというかですね」
「子供、欲しかったなあ、って」
「うん?」
【あっ】
【悲しいなあ】
【?】
そういえば、わんださんとかこの辺の話知らないよな。
まずい、ついうっかり婚約者に対する本音が出てしまった。
いや本当にもう、子供の名前とか考えていたんだよ。
「まあ、私が子供ですからね!パパ、ゲーム買ってくださいよ!」
「わかりました。でも、ゲームは一日一時間までですよ」
「厳しい!というかそれだとゲーム配信できなくなっちゃう!」
「日付をまたげば、二時間連続で配信できますよ」
「それでも二時間は短いですよお!」
まあ、それはそうか。
普通ならともかく、仕事でやっていることだし。
「じゃあ、配信中のゲームはカウントしないということで」
「そういう問題じゃないよ!」
わんださんは声だけで悲しみを伝えてくる。
余程冗談とはいえ、ゲーム一日一時間というのが堪えたらしい。
「……あの、むらむら先生?」
「何ですか?」
月島は、さっきからずっと俺の袖をつまんでいる。
そのしぐさ自体は可愛らしい。
問題は表情だ。
端的に説明すれば、むくれている。
唇を尖らせ、目を細め、不機嫌そうな表情を隠しもしていない。
顔を赤らめ、もじもじしていた気弱な少女の面影はどこにもない。
「もしかして、怒ってたりするのか?」
「…………怒ってるなんて、一言も言ってないですけど?」
口調が冷たい。
「もしかして、ママ、やきもち焼いてたりする?私と助手君が楽しそうに話してるのを見て」
「…………」
月島はジト目のまま、頬を染めてそっぽを向く。
「……だとしたら、何なんですか?」
「ごふっ」
「ママ、か、かわいいっ!」
【かわいい】
【照れてるの良すぎる】
【助手君もなんかダメージ受けてない?】
しょうがないだろう。
……反則だ、こんなのは。
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