第36話「娘と母と父」

「こんばんは、イラストレーター兼Vtuberの月煮むらむらと」

「助手です。今日は、ゲストがいらしてくださってます。挨拶をお願いします」



【来ちゃ!】

【コラボ楽しみ】

【一体誰なんだ―(棒)】



 挨拶をしながら、わんださんのミュートを解除する。

 同時に、彼女の声が放出された。



「こんばんけーん、番犬系Vtuberの犬牙見わんだですよ!今日はよろしくお願いします!」

「よろしくお願いします」

「わんだちゃん、よろしくお願いします!」

【わんだちゃん!】

【親子コラボ待ってました!】



 裏で話した時とあまり声のトーンが変わっていない。

 全く変えていない俺が言うのもなんだが、本棟に素の声なんだな。

 月島を澄み切った夜のような声とすれば、わんださんの超えは太陽のように明るい。



「こうして配信する前に裏で三人でちょっとだけ通話してたんだけど、意外と打ち解けられたんですよね」

「そうだねえ、まあでも二人の仲の良さには負けるけどねえ」

「え、そ、そうですかね?」

【まあ親子だからな、仲いいのは当然ともいえる】

【わんだちゃんと助手君は一応姉弟定期】

【いや義理の父と娘だろ】



 なんというかコメント欄は完全にいつものノリである。

 どうして俺とむらむら先生が夫婦という前提で話が進んでいるのだろうか。

 もはや毎回突っ込むのもテンポが



「今日はですね、改めてむらむら先生と娘であるわんださんとの対談、という企画になっております」

「「うおー」」

【うおおおおおおおおおおおおおおおお】

【三人じゃなくて二人の対談で、助手君は進行役ってことか】

【親子三人会議じゃなくて?】

「コメントでなんでか俺まで親子扱いされてるんだけど何なんだろうな」

「またまたー」

「ちょ、ちょっとわんだちゃん何を言ってるんですか?」



 わんださんもむらむら先生も楽しそうに会話している。

 これなら配信としては盛り上がりそうだ。



「そういえば、ママ、言いたいことがあったんだよ。U-TUBE開設おめでとう!」

「あ、ありがとう!」



 これ、俺もしかしていらないのでは?

 普通にこの二人が会話しているだけで視聴者も満足できそう。

 俺はOBSに向き合いながら、気配を消すことにした。



「一か月たっちゃったから、ちゃんとお祝いしたかったなあ」

「裏では結構言ってくれてたじゃないですか、通話でもオフでも」

【そうだったのか】

【てぇてぇ】

【スパチャも送ってたよね!】



 二人の関係性の深さに、コメント欄が活性化する中。



「…………?」



 俺だけは、少しばかりの疑問を感じていた。

 ここ一か月、意図せずして月島の動向はおおよそ把握している。

 というか、自宅と学校以外にはほとんど出かけていない。

 そんな頻繁に、わんださんと会っているとは思えないのだが。

 視聴者へのリップサービスの可能性は、ない。月島が嘘を吐くはずがない。

 であるとすれば、いつの間に……いや今はそんなことを考えている場合ではない。

 落ち着こう。

 元婚約者の件で、精神が過敏になってしまっているのだ。

 この前があったのだから、まだ動揺が残っているのかもしれない。



「デビュー前、いろいろ相談に乗ってもらったりとかもしたんですよねえ、今となっては懐かしい」

「トークのこととか、活動するにあたっての方向性とか、色々説明したもんね!」

「そういえば、私一人だと無理だから、機械系のサポートを誰か雇ったほうがいいという話もしてわんだちゃんが最初に言いだしたんですよ」

「まじかよ。じゃあ、それがなかったら俺はここには」

「いなかったですね……」

「つまり、私も助手パパの生みの親ってこと?」

「それはなんか違う……というかややこしいな」

【もうめちゃくちゃだよこいつら】

【要するに助手君はわんだちゃんのお父さんで、でも、わんだちゃんは助手君の産みの親でもあって……】

【ややこしいとかそういうレベルじゃないな】



 なんと、「助手君」の発案者はこの人らしい。

 それだけで、月島のことをわんださんがよく理解しているんだなということがわかる。

 純粋に、仲がいいのは間違いなさそうだ。

 少しでも疑ってしまった自分が恥ずかしい。

 


 現時点では、ちょっとテンションが高いだけの普通の子だ。



「もともと、わんださんの配信にゲストとして出たのがデビューのきっかけだったんでしたっけ?」

「そうそう、私が凸待ちをしてね、連絡先は知ってたママにも出てもらったんだ!」



 凸待ちというのは確か、色々な人と順番に通話するという企画だったはず。

 たくさんの人と短いコラボを連続でやるようなものだ。



「今日はねー。二人に訊きたいことがあってきたんだよ」

「ほほう」



 わんださんが、俺達二人に訊きたいことか。

 なんだろうか。

 ぶっちゃけさっきの打ち合わせではあんまり話す暇がなかったからな。

 教えて欲しいところだ。



「ズバリ、お二人はどういう関係なのー?ってことです」

「ぶふっ」

「んふっ」



 二人ともむせてしまった。



「どういう、関係とは?」

「いやもちろん付き合ってるのか、はたまた結婚してるのかってことだよー!」

「その二つしか選択肢がないのか?」

【おいおいおいおい】

【ま―た始まったぞ】

【ああ、わんだちゃんのぶっこみぐせが】



 コメントを見て、俺はようやく理解する。



「ねえねえねえねえ、ママと助手君パパはいつ結婚するの?」

「いや全然そんな予定はないけど……痛い痛い足をつねらないでむらむら先生!」



 こうやってとんでもない発言をしてくるのが、この犬牙見わんだの特徴であるらしい、と。



 ◇



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