第22話「すり抜けの方が最低保障よりダメージでかい説」
「これで、六十連目ですね。そろそろ出ないと……」
「あれっ」
見れば、むらむら先生の方の画面に、虹色の魚が映っている。
これが示すのは、たった一つ。
最高レアが確定で出るということだ。
むらむら先生がクリックすると、虹色の魚が発光して、人型に変じる。
『ハーイ!お久しブリです!いえ、はじめまして!ブリです!』
ブリ――金髪ロングのお姉さんが出てきた。
「ああああああああああああああ!嬉しいけど、好みなんだけど、君じゃないいいいいいいいいいいいいい!」
【すり抜け】
【知ってた】
【この反応を楽しみにしてたまである】
【これぞ配信者、持ってるな、むらむら先生】
すり抜け。
特定のキャラクターがピックアップされるガチャにおいて、ピックアップされていないかつ同等のレアリティのキャラクターを引いてしまうこと。
演出の関係上、一度はもしかしたら、いや間違いなく目当てのキャラクターなのだろうと思ってしまうがゆえにダメージは単なる爆死とは比べ物にならない。
今回で言えばカジキマグロとマダイ以外はすべてすり抜けである。
望みのキャラクターを得られる可能性は、手元まで来ていながらむらむら先生をすり抜けたというわけである。
「はい、すり抜け。あ、俺はまた金と銀だけだなあ。カタクチイワシもマアジもカンストしそうなんだが……」
「ぐぐぐぐぐ、持ってないキャラではあるからありがたいんだけど、何ですり抜けるんですか!」
「このガチャ、虹色の確率はピックアップが出る確率は0.7%しかないので、虹色のうち、四分の三はすり抜けなんだよ」
「はいはいクソゲーですね」
「ちゃんとしたゲームのことクソゲーっていっちゃいけません!」
「だってえ!」
【草】
【六十連目にしてもう発狂してる】
【ブリは普通に人権なんだけどな】
コンプライアンスというものがあるのだ。
まあ、俺もちゃんとわかってはいないのだが。
今度、そこら辺の話もしたほうがいいかもしれない。
【クソゲーって言っちゃったよ】
【おいおいおいおい、死んだわあいつ】
「まあでも、ここでいい流れが来てるっていう話はあるぞ?このあとどんどん虹色のキャラクターが出て、お目当ての水着衣装を引けるかもしれない」
「なるほど、それはそうですね!この調子で巨乳キャラをガンガン弾きまくってやりますよ!」
「掛け声が最低すぎないか?」
欲しい気持ち自体はよくわかるけれども。
七十連。
「よし、よし、また来た!」
「まじかよ」
むらむら先生の方は、またも一体虹色の魚が出ている。
一方で、俺の方は何もない。
あくまでも天運に過ぎないとはいえ、ここまで差が出てしまうのか。
六万、あるかなあ。
ぶっちゃけ次の給料日まで待ってもらわないと厳しいというか。
食費とか家賃とか考えると六万貯まるのだいぶかかりそうな気がする。
【おお!】
【今度こそ勝ったな、ガハハ!】
【助手君、お金がないとか言ってなかったっけ?大丈夫そ?】
【まだだ、まだ】
『ハーイ!お久しブリです!いえ、はじめまして!ブリです!』
「ああああああああああああああああああああああああああ!また被ったあ!」
「はい、お疲れさま。うわ、カタクチイワシ引き過ぎてマジで完凸したんだけど」
「ねえ、何で!何でよりによってすり抜けるだけじゃなくて被るの!まだ一体しか最高レア引いてないのに!」
「いや、俺に訊かれても。あと、落ち着いて。俺の服を引っ張らないで」
「うううううううううううう」
月島は連続の擦り抜けに耐えられなかったらしく、既に半泣きになっている。
泣きながら俺の服をぐいぐいと引っ張っているわけで。
袖が伸びてしまう。
いや、伸びるならまだいいけど今日ジャージなので、破れたらどうしようという心配が生じてしまう。
あと単純に距離が近過ぎると思う。
【待って服引っ張ってるって言った?!】
【まーたいちゃついてるよ】
【距離間が近すぎておかしくなりそう】
【いちゃつくから非リアの怨念で爆死してるのでは?】
【真の爆死者は先生じゃなくて、未だに虹引けてない助手君なんだよなあ】
俺はしがみついている月島の腕を掴んでゆっくりと元の位置に戻す。
顔がマイクから離れてると声が届きにくいからね。
「ほら、なんかいちゃついてるみたいな扱いになってるじゃないですか」
「ご、ごめんなさい」
「別にいいけど、俺いつになったら虹くるんですかね」
「ごめん……」
「そこで謝るのはなんか違わないか!?」
いまだ最高レアを引けていない俺と、擦り抜けばかりの月島はガチャを再度引くのだった。
まあでも。
【ずっといちゃいちゃしてる】
【てぇてぇなあ】
仲がいいところを見られて、それをリスナーの皆さんが見てくれている今の状況は。
あまり悪い気はしないのだった。
◇
ここまで読んでくださってありがとうございます。
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