第21話「お金ってどうして無くなっちゃうんだろう」
『
端的にコンセプトを説明すれば、擬人化ということになるだろう。
マダイ、ブリ、アジ、クロマグロなどと言った実在する魚たちを擬人化し、ガチャでお迎えして、育成するというゲームだ。
最終的には育成した魚――美少女である魚娘たちに競泳をしてもらい、そのスコアを競ったりもするらしい。
まあ、俺達の目的はキャラクターを育てることではないのだが。
「それにしても、クオリティが高いゲームだよなあ」
「まあ、この私も関わってますからね?」
ちなみにだが、月島がかかわっているというのはキャラクターデザインについてだ。
競泳を行うという性質上、『魚娘』の体は3Dモデルで構成されているが、キャラクターの造形自体はイラストレーターさんが担っている。
月煮むらむら先生は、その中の一人だった。
「今回は、マダイとカジキマグロのピックアップなんですけど、どちらも私がデザインを担当させていただいております」
「めちゃくちゃかわいいデザインですよね」
初期衣装のセーラー服と違い、両者とも水着を着ている。
競泳がメインなのに初期衣装が水着出ない理由は謎だが……。
「まあ、私としては性癖全開でデザインしたんでね、ここで引けなきゃ神絵師の名折れってもんですよ」
「そうか?」
まあでも、モチベーションが高いのはいいことだ。
二十連。
両者金、銀のみ。
「まあ、これからだからね?」
「虹、すなわち最高レアが出てくる確率は三パーセントですからね」
五十連。
両者これまで金、銀のみ。
「ね、ねえ?」
「うーん、露骨に下振れてますねえ。もう出てもいいはずなんですが」
確率的には二人で五十連ずつ引いたのだから、三体くらいは最高レアが出てもおかしくないはずだ。
現状、ガチャ運はすこぶる悪いと言わざるを得ない。
【く、苦しい】
【さっきまでてぇてぇの空間にいたはずなのに、どうしてこんなことに】
【これを待ってたんだよなあ(暗黒微笑)】
ガチャ配信が人気であるというのには、いくつか理由がある。
その中の一つが、爆死を見れる可能性があるからだ。
むらむら先生に関しては、どうもファンの間でそういうことを望んでいる気配がある。
ソースはエゴサーチ。
「むらむら先生」などで検索するようにしている。
「困ったなあ、何か運気が上がるような話とかない?助手君」
「さすがにそんなサポートは承ってませんよ」
そもそも運気が上がる話ってなんだ。
絶対に怪しい宗教とかそういうレベルの話だろ。
「あ、そういえば忘れてた」
「何です?」
月島が、足元にあった学生鞄をごそごそとまさぐりはじめた。
なんか、特定班ってこういう音からでも使っているものを特定できたりするらしいんだけど大丈夫かな?
むらむら先生は、年齢を公開していない。
コミケなどでも、本人は表に出ず、売り子さんに任せていたりする。
ちなみにまだ無名だった初回は……大変だったなあ、本当に。
「何ですか、それ?」
「運気が上がる消しゴムなんだって」
いわゆるうんちの形をした、金色の消しゴムである。
「こんな金色ウンチで運気が上がると?」
「上がりますよ!だって上がるって書いてましたもん!」
そういいながら、月島はカバンをさらにまさぐる。
と、突然鞄を持ち上げて、向きを逆にした。
ぼとぼとと、同じものが落ちてくる。
少なくとも、三十個はある。
「これ、全部今日買ってきたのか?今目の前に三、いや五十個くらい金色のうんちが見えるんだけど」
「は、はい。今日ガチャ配信するから、そのために」
【何でそんな大量に買うんだよ】
【あのさあ】
【そもそもそういうアイテムってたくさん買えばいいってものだったっけ?】
「あの、助手君、何だか顔が怖いんですけど、怒ってます?」
どうやら無意識に顔が引きつっていたらしい。
「別に怒ってないよ、全く怒ってないんだけど」
怒ることなんてない。
自分の所持金で何を買おうと、それは彼女の自由だ。
「ただ、心配なんだよ。なんていうか、霊感商法とか詐欺にあいそうで」
「そ、そんなことないですよ!」
「じゃあ、むらむら先生、俺が『重い病気になって、お金に困ってる。百万円貸してくれないか』って言ったらどうする?」
「え、もちろん貸しますよ、ていうかあげるよ?」
「だと思いました。そういうところだからな?」
まだ女子高生だから仕方がないとはいえ、月島は少々お人よしというか世間知らずな一面がある。
相手がかつての恩師とはいえ、男をホイホイと自分の部屋にあげたりとか、男の部屋に気軽に乗り込んできたりとか、時々突拍子もない行動をとることがある。
俺としては、教え子が何かしら高い壺とか躱されているんじゃあないかと気が気ではないのだ。
一応、前に部屋に入ったときに、そういうものがないかどうかチェックはしたけどね。
「もっと警戒心を持ってくれよな。じゃないと、酷い目に遭うからな?」
「いや、助手君以外にはお金貸したりしませんよ?」
「うん?」
【え】
【ちょっと待って理解が追いつかないんだけど】
【クンクン、これは匂うな】
「私にとって助手君は特別な存在だからさ、だから、君が望むならお金でも、何でもしてあげたいって思ってます。それくらいには感謝してるんですよ」
【でもむらむら先生がお金渡しちゃったら、助手君この仕事辞めちゃうんじゃないの?】
「え――」
そんな、ある意味で正論パンチなコメントを見て、月島は顔色を青く染めた。
「や、やっぱりなしで」
「いや、別に辞めたりしないから安心してくれ」
そもそも、くれると言われたら断っていたはずだ。
俺が彼女の申し出を受けているのは、金銭を労働の対価としてもらえるから受け取っている。
「お金が欲しい気持ちがないわけじゃないですし、楽して手に入るならそれが一番でしょうけどね、むらむら先生を見捨てて得るお金なんて、気分がよくないだろ」
「で、ですよねえ、なんだか安心しました。でも、まあ、感謝してるのは本当なんですよ。今の私があるのは、君のおかげなんだから」
「いや、先生の才能と努力の結果でしょう。俺は背中を押しただけですよ
「あ、ありがとうございます」
何でだろう、本格的に恥ずかしいんだけど。
今行ったことに嘘偽りはひとつもない。ないのだが、ないからこそ思っていることを、全部口に出してしまったという気まずさがある。
【戦友じゃん】
【恋愛だけじゃない、相棒としても最高にてぇてぇ、つまりてぇてぇ】
しかもこれ、一万人くらいの人に見られてしまっているんだけど。
俺達は何をやっているんだろうか。
「さあ、ガチャを回していきましょうか!」
「う、うん!」
【草】
【また恥ずかしさ地獄から逃げるためにガチャ地獄に突っ込んでるよこの二人】
【天丼じゃん】
【てぇてぇ】
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