第31話 配信が終わっても、本気
「配信終わったー」
「お疲れ様でした。あ、片付けはじめますね」「いやそれくらいは俺にやらせて?」
あのあと、「冗談ですよ!」とうまく誤魔化しながら配信を終えた。
リスナーがどう判断したかはわからないが、ともあれ配信は好評だったらしい。
「それで、同棲のことなんですが」
「マジで暮らすつもりなの?」
嘘をつかないのは知ってたけど流石にびっくりだよ。
というかダメに決まってる。
そう言おうとして。
すっと月島が一本指を高く上げる。
先ほど、俺の部屋の積もったほこりを指摘した時と同じように。
「先生、まともにあそこで暮らしてないですよね」
「まあ、それは確かに」
最近は、玄関で寝ている。
一分一秒でも、今のアパートにいる時間を減らしたかったからだ。
朝、起きてすぐに家を出て、学校に行き、そのまま仕事を全て職場で片付けて、シャワーを浴びるためだけに帰宅。
その後、月島の家に行き、配信を終えて24時ごろに帰宅して寝る。
そんな生活だ。
というより、そうでもしないとやっていられなかった。
「大丈夫じゃないでしょう」
「いや、大丈夫だからな?全然生活できているわけで」
仕事をしまくって忙殺されるくらいでないと、またあの光景がフラッシュバックしてしまう。
もう、それは嫌だ。
とてもじゃないが、耐えられる気がしない。
「でも、このままじゃダメなこともわかっているはずですよ。この部屋から引っ越さないと、先生はずっと嫌な思いをしたままです」
「……それは、そうだな」
この部屋の家具一つとっても、天井のシミ一つでさえも、婚約者との思い出が強すぎる。
確かに、別のどこかに住むべきではある。
かといって、もはや私にはそんな手続きをする気力が残っておらず、実家や親せきにも頼れない。
月島家に厄介になるのが一番いいのかもしれない。
けれど、彼女にこれ以上借りを作りたくないという気持ちもあった。
「私は、先生に助けられたよ」
「それは別に、仕事としてやってたことで、お前が重荷に感じる必要はない」
本心だった。
確かに、傍から見れば過剰だったかもしれない。
何度も彼女の家を訪問し、彼女が孤立しないように生き方を考える手伝いをしたつもりだ。
教師として、自分が何をするべきなのかということを考えて実行に移しただけのこと。
その対価は、銀行口座に振り込まれている。
まあ、もう全部取られたけど。
それにしたって取り返せる。
準備はもう整ってる。
「じゃあ、お願いです。私に、先生を助けさせてください」
「…………」
そういう言い方をされて、真剣な目で見られたら。
俺はもう、何も反論できなかった。
「親御さんの許可が取れたらね」
いやまあ、まず間違いなく無理だと思うけどね。
「いいんじゃないかしら。一つ、空いてる部屋があるし」
「はい?」
それは俺の声でも、月島絵里の声でもない。
「お母さん!」
月島の母がそこに居た。
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