第28話 スーパーに行こう

 料理配信。

 俺も、動画投稿者さんが料理する様子をアップしていたりするのは見たことがあるし、知っている。

 知らない料理とかも知れたりするので便利だ。

 俺は料理できないけど。

 そして、料理する所を生配信するということに対して需要があるのもまた理解している。



「質問があるんだが、いいか?」

「何ですか?」

「それってVtuberとして大丈夫なのか?」



 俺もここひと月、Vtuberというものを手伝う中で、少しわかってきたことがある。

 Vtuberというのは、二次元のキャラクターである。

 つまり、料理配信のような実写の映像を移す行為はVtuberから最も程遠いコンテンツなのだ。

 それこそ、実際に実行したVtuberが「キャラクターを冒涜している」などと言われて炎上してしまった事例もあるらしい。



「大丈夫だと思いますよ。元々、私達セルフ受肉勢はその辺曖昧だったりもするので」

「あー、なるほどね」



 月島の言いたいことは理解できた。



「つまり、月煮むらむら先生は純粋な二次元のキャラクターじゃないから、実写の部分を出しても叩かれにくいってことか」

「そういうことです」



 もちろん、Vtuberのファンの皆さんをを傷つけないように私自身の肌を露出することは避けますが、と月島は補足した。

 まあ、手袋を買って手元だけ写せば実写感はあんまりないような気もする。

 ゆえに、むらむら先生が料理配信をやることに問題がない、という主張には納得した。



 月島は、指を一本上に向けてドヤ顔で解説を続ける。

 


「そして、見栄えを考えるとある程度の料理を作らなくてはいけません。この意味がわかりますね?」

「要するに、俺が食べなきゃならないってことね。お母さんは?」

「母は夕食を取らない人なので……」

「ああ、そうなのか」



 なら、なおさら俺が食べるしかない。

 あと、月島が作った料理を俺が食べるというのは、きっと視聴者も喜んでくれるに違いないと思う。



「それでなんですけど、先生には機材の設定をお願いしたくって」

「ああうん、なんとなくわかってた」



 だよね。

 月島には無理だよね。


「じゃあ、俺が作業するから、お前はどうする?」

「私は……食材を買うところまで、できれば一緒にやりたいです」

「…………」



 何で、とは言わなかった。

 そういう風に考える気持ちは、十分に分かったから。

 俺とて、教師と教え子という壁がなかったらごく自然に一緒に買い物に行っていたと思うから。

 

 


「今日は、先生の食べたいものを作るので、先生がいないと困ります」

「わかった。じゃあ、スーパーには一緒に行こう」

「はい、ありがとうございます」

「その代わり、知り合いに見られてもよくないから、直接一緒には回らない。これでどうだ?」

「わかりました!」



 月島は、ドヤ顔で薄い胸を張る。

 そんな姿が、どこかいじましい。

 こんな自分に対してここまでしてくれるのが、ありがたい。

 もちろん俺だけの為ってわけでもないのだが。



 ◇



 買い物を済ませて、俺達は月島の家に着いた。



「思ったより安く買えてよかったですね!あ、それそこに置いといてください」

「了解」



 言われて、食材の入ったビニール袋をキッチンに置く。

 なんか、同棲しているカップルとか夫婦みたいだな。

 わざわざ口に出したりはしないけど。



「じゃあ、機材のセットをやっていきますか」



 料理配信となると、一番苦労するのはカメラと調理器具だ。

 相談の末、今回はキッチンにマイクなどを置くことにした。

 配信部屋にコンロを置く方法もあったが、どうしても換気方法がわからなかったため、致し方なしである。

 よほど水を飛び散らせたりしなければ機械が壊れることもないため、多分これで大丈夫だろう。



「じゃあ、はじめますか」

「おう」



 時間になったので、俺達はU-TUBEのボタンを押して、配信を始めた。

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