第26話「ところで、ガチャは?」

 一分か、十分か、あるいは一時間か。

 時間の感覚がなくなったころになって、俺は腕を離した。



「ありがとう」

「ど、どういたしまして」



 むずがゆい感覚だけがある。

 いやというわけではなく、ただひたすらに照れくさい。

 話題を変えよう。


「そ、そういえば、ガチャどうするんだ?」

「何がです?」

「いや、天井に到達した後交換してなかっただろ?結局どうするのかなって思って」

「あー」



 触れるものすべてを刺し貫く系ガールたるカジキマグロか。

 はたまたすべての魚人の頂点に君臨する『魚の王様』の家系に生まれたマダイか。

 いずれかを選べば、もう片方は手に入らない。

 

「うう、悩みますねえ」

「そうだよなあ」



 月島は無類の巨乳好きであり、どうしても二人とも引いておきたかったらしい。

 であれば、道は一つしかないともいえる。



「追い課金します」

「マジ?」

「こうなったら、どちらかが出るまで回してやりますよ。そうすれば天井分と合わせて二人とも手に入ります」

「なるほどなあ……お前今月大丈夫か?」



 月島の稼ぎがいくら良かろうとも、そんなポンポン散在していいわけではない。

 まして今は、俺の給料やVtuberとしての機材など何かとお金が必要になるはずだというのに。



「いいんですよ。今回に限って言えば、Vtuberとしての活動の範囲内だし、仮にそうでなかったとしても引きたいし」

「そっか。まあ、お前がそういうのなら」



 元々得意なことを伸ばし、好きなようにやってきた結果が、今の月島である。

 その彼女が、ここまで愛を以てゲームに打ち込んでいるのだ。

 邪魔するのは野暮というものだろう。



「じゃあ、行きますよっ」



 ◇



「ど、どうしてこんな……」



 月島は、微妙な表情を浮かべている。

 確かに、ピックアップ対象は引けたのだ。



「たった十連で……」



 よりにもよって二百十連目で出たのである。

 あともう少し早く出てくれたら、課金する必要性がなかったのに。

 というか課金アイテムが余っている。



「く、悔しいです……」

「ま、引けたからいいじゃないか」

「それはそうなんですけど……!」

「これからもこのゲームは続けるだろ?だったら、今後に残しておこう」

「そうですね!」




 月島は、ふわりと微笑みを浮かべた。

 不覚にも、俺はときめいてしまった。

 頭を振って、俺はくだらない感傷を振り払った。



「それにしても、こうなるなら別で配信枠取ればよかったですよね……」

「言うな月島。俺もそう思ってる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る