第19話「ガチャ配信スタート」

 月島と一緒にVtuberデビューしてからもう2週間になる。

 チャンネル登録者数は19万人に達しており、20万人の大台が見えようとしている。

 トゥイッターでも「むらむら先生」や「カップルチャンネル」が配信の度にトレンド入りするのだとか。

 ちなみに「助手君」はトレンド入りしていない。

 じゃないとトレンドに入れないの初めて知ったよ。



「こんばんは、月島」

「はい、今日もよろしくお願いします」



 ともかく。

 俺が月島の家に週に一度通うこの生活も、だいぶ慣れてきた。



「最近、どうですか?ちゃんとご飯とか食べてますか?」

「うーん、もちろん、一応食べてるよ」



 こうして雑談をしながら廊下を進む余裕すらある。



 ちなみに食事に関しては嘘ではないが、真実でもない。

 ただ、ほとんど喉を通らないというか、ちょっとしたきっかけで吐いてしまうからほとんど栄養になっていないだけで。

 後ぶっちゃけ食欲も落ちた。

 食べる気力がないので、だいたいゼリー飲料かプロテインを無理やり流し込んでいる。

 作る気力どころか買う気力すらないから備蓄しているものを適当に食べているのだが、そろそろ限界が来つつあるな。

 通販か何かでゼリー飲料でも箱買いしておくか。



「……わかりました。嘘は言ってないようですね」

「おう」



 会話はそこで終わり、配信を準備するために、俺はパソコンを起動して操作を始めた。


 

 ◇



「こんばんは。ガチャの時間ですよ―」

「こんばんは。初めてこのゲームをインストールした助手です」

【こんばんは!】

【きちゃ!】

【ガチャの時間だ!】

【配信時間は、夜固定なんですか?】



「あ、うん。そうなんですよね、昼間は諸々の事情でできないんです」



 そういえば、むらむら先生が学生であるという情報は公開されてないんだよな。

 ここは助け舟を出したほうがいい。

 トーク面でのフォローも、俺の役割なのだから。



「すみませんね、俺が仕事で夜以外は動けないんです。なので配信時間は現状夜のみです」

【助手さんいたんだ】

【助手さんは兼業なんだね】

【昼普通に働いて、夜もこうしてサポートしているのか、大変だな】

「いやー、ちょっと色々あってお金に困ってまして。こうして副業として配信を手伝わせてもらってるってわけです」

「あ、助手君に対しては一応バイトみたいな感じで、サポート一回につき手当を出しております。時給制で」



 これに関してはその通りで、先日配信した時にも俺はお金を受け取っている。

 多分、今日も終わった後で受け取ることになる。



「ありがたいことに、既に収益化もできておりまして。広告収入もかなりのものなので助手君にもちゃんとバイト代が払えてるってわけ」

「いやあ、今月も無事水道代が払えてよかったよ」

【おおう】

【お金に困っているのか。わかるぜ】

【世知辛い世の中だなあ】

【まあ、事情が事情だもんね】

【一文無しはきつすぎる】



 ◇



「ゲームをやろうと思います」

「ほほう」



 それは、先日俺と月島が通話で打ち合わせをしていた時のこと。

 RINEを交換したことで、こうして通話もできるし、それで会わずに打ち合わせすることもできる。

 俺の住むアパートと彼女の家、そこまで距離があるわけでもないんだが、若干遠いんだよなあ。

 こうして直接会わなくてもいい時には、通話をしたりもする。

 昔は本当にひどかった。

 スマートフォンやタブレットの起動すらおぼつかなかった三年前に比べれば、彼女は確実に進歩している。

 進化と言ってもいいかもしれない。

 閑話休題。



「ひとつには、私がゲームというこれまでほとんど触れてこなかったことです」

「確かに新しいことへのチャレンジは大事だよな。もう一つは?」

「もう一つは、その、先生と一緒にゲームを楽しみたいなと思って……」

「そ、そうか」



 確かに月島と遊んだりしたことは意外と少ない。

 こんないじらしいことを言ってくれるの、控えめに言っても可愛すぎるな。



「まあ、俺も遊んでみたいし、いいよ」

「本当ですか!えへへ……」



 一応、他にもう一つ思惑もあるしな。



「ゲームって言っても何かやりたいものとかあるの?」

「うーん、特に思いつかないんですよね。私、今までゲームをやってこなかったもので」



 だろうな、と思う。

 彼女の機械音痴、機械嫌いは尋常ではない。

 ゆえに、デジタルゲームというものを月島はやってこなかった。

 仕事で関わってきたソーシャルゲームくらいのものらしい。



「じゃあ、ホラゲを」

「ホラゲは嫌ですよ」

「じゃあ、洋ゲーを」

「絶対ゾンビアクションとかやらせようとしていますよね?嫌ですからね」

「わかったわかった。じゃあ、別のゲームにしておこうな」



 会話をしながらも、手はパソコンを操作している。

 といっても、遊んでいるわけではない。

 どのようなゲームがいいのか、検索しているのだ。

 ユーチューブでゲーム実況は見ていたので、気を付けるべきことはある程度分かる。

 権利関係には気を付けること、素直にはやっているゲームをやること、コメントが荒れやすいので心の準備をしておくこと。



「これとか、いいんじゃないか?」

「うん、どれのこと?」


 


 俺は、一つのゲームの画像を送って見せた。

 彼女もまた、それに賛同してくれた。



「日高先生、この後飲みに行きません?」

「あっやべっ、もう切るわ」



 職員室で通話しているのを同僚に見られて、あわててごまかすことになったのだった。


 ◇



「今日は、さっきも言ったけど、ゲーム配信をやっていきますよ!私一人では無理だけど、助手君にサポートしてもらいつつ頑張る所存です」

「ゲーム抜きにしても先生単独だと配信自体出来ないでしょうが。ともかく、今日やっていくゲームは、ソーシャルゲーム『魚娘アクアパッツァ』だね」

【先生この前書いてたやつやんけ!】

【俺もやってるわ】



 初めてのゲーム配信ということもあって、コメント欄は大いに盛り上がっていった。

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