第16話 「まったり話しながら」

【ほんとお?】

【そんだけいちゃいちゃしておいてそれだけはないよ】

【一緒に住んでるのかと思った】

「そもそも、同棲していないですからね。配信の時に俺がむらむら先生の家に来てるってだけだから。普段から一緒にいるわけじゃないんだよ」

「まあ、大前提として私は実家暮らしですからね。二人きりってわけでもないんだよ。普通にお母さん別の部屋にいますし」



 おっと、それ言っていいのか。

 いや、まあそのラインならまだ大丈夫かな。

 正直、生徒指導なんかでもやらないといけないからインターネットリテラシーについて学ぶ機会もあるんだけど。

 そういった中では、何であれあらゆるリアルの情報は漏らさないことが原則となっているわけだが。

 それってあくまで一般人向けであって、イラストレーターみたいな個人での広報活動が重要な人にどこまで当てはまるのかは疑問だよな。

 多少は個人情報を見せておいた方が親しみが持てる側面もあるだろうし。



【ほうほう】

【俺も実家暮らしだ、おんなじだね】

【お前はニートだろ】



「え、君達ニートなんですかあ?」

「煽るな煽るな。別の質問を、と」



【お二人は、普段配信外でどんなやり取りをしてるんですか】




 確かに、配信以外での様子とかわからないよね。

 まして、今日で二回目の配信となるわけで。

 まだまだむらむら先生はともかくとして、俺の方はそんなに知られていない。

 つまるところ、俺達のことを知りたいという人たちがたくさんいるんだな。



「最近は、そこまで会ってませんでしたけどね。年賀状のやり取りくらいで」

「そうだねー。最後に会ったのが、二年前だっけ」

「ああ、そうだな。それで再会したのは一、二週間くらい前です」

【ええ】

【結構最近なんだ】

【つい最近に再開して、ここまで楽しく話せるのすごくない?】



 中学校の卒業式以来だ。

 その後すぐ、俺も別の学校に異動になってしまったこともあって、疎遠になってしまった。

 まあ、住所は変わらなかったんだけどね。

 この近くの小学校に赴任になったから、そこまでこうして移動することはない。



【じゃあ、住所はお互い知ってるってこと?】

「ああ、まあ。住所は知ってるな」

「この前も、私助手君の家に行きましたもんね」

「まあそうだ、な?」



 確かに、先日彼女は俺の家に入ったけども。

 それは緊急事態だったからであって。

 この流れでその言い方だと誤解されませんか?



【ガタッ】

【マジで?】

【やはりカップル……】

「あの、違うんですよ。あくまでもお仕事について説明を受けただけですからね?具体的に何をすればいいのかとか、そもそもVtuberってなんなのかとか、そういうことを色々説明をしていただいたというだけですから」



【めっちゃ早口で言ってて草】

【敬語で言い訳しちゃうのわかる】

【ああ、Vtuberについても知らないのか】

【良くそれで、機材の操作とかできてるな】

「最初は、OBSの使い方とかわからなかったですもんね」

「本来なら、むらむら先生がやればいいことだったと思うんだがな」

「うっ」


 ジト目になって、隣で絵を描くむらむら先生を見る。

 手元のタブレットに書き込み続けている彼女の顔は真剣そのもので、この人は絵を描くときにこういう顔をしているんだな、と思った。




「まあ助手君がいてくれるから万全にイラストに集中できるってことで」

「俺としてはいいけどな、配信前日にまだOBSとかいうソフトのインストールすらしてないって言われた時は頭抱えたぞ」



 OBSというのは、正式名称をOpen Broadcaster Softwareという。

 OBSとは、複数の映像や画像、音声、BGMなどを重ねて、1つの映像としてライブ配信するためのソフトだ。

 例えば、今この状況では絵を描いている画面、むらむら先生のLive2D、さらに背景の画像などを集合させている。さらにいえば、私達の声や、BGMなども流している。

 配信をするためには必須級のソフトであるらしい。

 かなり操作方法は難しかったが、何とか会得した。

 ちなみに、むらむら先生は全く使えない。

 本当に、機械が苦手なのは相変わらずだな。



「いやあ、機械の操作は全然できないんですよ。最近やっとスマートフォンとかが使えるようになったところで」

「そういえば、この前動画見せてくれたよな?」



 中学の頃は、実際パソコンとかタブレットを起動する所から詰まってたもんな。

 俺が根気強く教えていなければ、月島絵里は今のデジタル機器を使用したイラストレーター、月煮むらむらにはなれなかったかも知れない。



【やってることは単なる介護なの面白い】

【おばあちゃんじゃん】

「おいおい、おばあちゃんって言ったそこのコメント、ちょっとお話を伺ってもいいですか?私はママであってババアじゃないですよ?」



 謎の圧を月島が発し始めたので俺は話題を変えることにした。



「ええと、犬牙見わんださんでしたっけ?」

「わんだちゃんね、Vtuberどころかライブ配信自体見たことないっていうから見せてあげたんだよ」

「ライブ配信って何って聞いたんですよ」

【そこからよくマスターできたな、obs】

【助手君ありがとう 500¥】

【もしかしてオタクとかじゃない一般人】

「あー、まあ確かにオタクとかではないかもですね」



 むらむら先生のイラストは見ていたが、それが例外であり、普段はそういうものをあんまり見ていないと思う。

 どっちかと言えば、音楽を聴いたり、身体を動かしたりする方が性に合っている。



「さて次の質問はーー」

【お互いの好きなところを教えてください!】



 横の月島が顔を真っ赤にするのが見えた。

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