第5話「マシュマロ、食べよう」

「そういえば、俺がこうやって配信に出る理由って聞いてないんだけど、どういう理由なんだ?」

「う?」



 俺の指摘に、彼女はうめき声とともに硬直した。

 Vtuberとしてのアバターのみならず、現実の本人が固まっている。

 これ、会話が止まるのはまずくないか?

 とりあえず話を続ける。



「いや、機材のサポートなら、そもそも俺が話す必要ないじゃないですか、なのに、なんで俺が話しているんだろうなって」



 機械音痴ゆえに、機械の操作をしてほしいというのは理解できるし、納得も可能だ。

 だが、それならば別に俺が話す必要などないではないか。

 そもそも、テレビ番組などではカメラマンや照明などといったいわゆる裏方の機材担当の人たちは表に出てこないのが普通だ。

 だというのに、なぜ俺がむらむら先生と、月島絵里と一緒に配信に出演することになっているのか。

 わざわざVtuberとしての、ジャージお兄さんの体を与えられてまで。



「そ、それはですね」



 しどろもどろになりながら、むらむら先生は答える。



「しゃべるの、苦手で」

「ほうほう。つまり、技術面のみならず、会話のサポートが欲しかったと?」

「そうなんだよね。デビュー前に他のVtuberさんの配信にお邪魔することは多々あったんだけど、そこでもあんまりしゃべれなふて……あう、嚙んじゃった」

【かわいい】

【噛んでるのもかわいい】

【そういう意味でもサポートかあ】



 噛んでいるのもかわいらしい。

 それは視聴者たちも同様らしい。

 そして、俺のこともしっかりと受け入れてくれているようだ。

 正直、全くの部外者が入ってくるというのには反発もあるんじゃないかと思っていたが、ちゃんと理由があるということで納得してもらえているらしい。



「じゃあ、改めてマシュマロを読んでいこうと思います」

「はいはい、わかりました」



 マシュマロというのは、匿名のメッセージを受け付けるものだ。

 特徴としては、メールやDMなどと違いどのアカウントが送ったのかがわからないこと。

 そして、特に

 彼女に言われて、事前に保存していたマシュマロを画面に貼り付ける。



【草】

【マシュマロも助手がやってるのか】

「いやまあ、画像変換するのとか保存とか、結構なれないと難しいですからね」

「そ、そうなんだよね。最初は私が自分でやろうと思ったんだけど、どうしてもできなくて」

「ちなみに、マシュマロの選定とかも私がやってます。といっても、あくまで被っているものを弾いたりしてるだけですけど」

「そうそう。だから、正直まだ何が来るのか知りません」

【草】

【楽しみ】

【初見なんか】

 少し、見逃せないことがあったので俺は口を開いた。

「先生、質問なんですけど」

「な、何かな」



 何かを察するかのように、声が震えている。



「あの、俺はむらむら先生に選定したマシュマロ見せましたよね?どうして見ていないんですか?」

「え、あ、いや」

【あっ】

【ああ、見せてたのか】

「いやあのね、イラストのお仕事があったから忙しくて、選ぶ時間が」

「ああ、なるほど。それは仕方がありませんね」



 彼女が忙しいのは本当だ。

 イラストレーターとしての仕事、学業。

 それに加え、Vtuberとしての仕事として、既に今から色々な人と連絡を取っていることも知っている。

 具体的な内容までは流石にノータッチだけども。

 メールチェックと返信ができるようになっているだけ成長したと言える。



「じゃあ、今チェックしてください。念のため、プリントアウトしていたやつがあるので、置いていきますね」

 印刷したマシュマロを、月島の目の前に置いていく。



「これは大丈夫ですか?」

「そうだね、これとかいいんじゃないか?」



【Vtuberとして、今後どんな活動をしたいですか?】



 今回の配信をするにあたって、色々とVtuberの初配信を観て勉強したのだが、割とテンプレートな質問ではあるらしい。

 インターネットは便利だね。

 「Vtuber 初配信」で検索すると、色々出てくる。



「それで、どんな活動をしたいとかあるんですか?」

「そうだね、やっぱり元々言われたんだけど、お絵かき配信はしたいな。みんなも、私が絵を描いているところは絶対に見たいだろうし」

「ああ、確かにそれは俺も見たいですね」

「えっ、本当?じゃあ明日はお絵かき配信にしよう」

「サムネイル作ってます?」



 サムネイルとは、動画などのデータをみようとした際に出る画像のことだ。

 動画や配信の顔ともいえるものであり、絶対におろそかにしてはいけないものである。



「あ、すうーっ、この配信終わってから作ろうと思っております」

【がん詰めされてて草】

【助手っていうか、ちゃんとマネージャーしてるな】

【機材ダメって言ってたけど、サムネは助手の担当じゃないの?】



「助手君のセンスがなさ過ぎたので、サムネだけは私が作ってるよ」

「え、あれそういう理由で没になったんですか?」



 知らなかった。

 パソコンをちょっと触って、俺もサムネイルを作ってはみた。

 結局、いくつか初配信のサムネイルを作ったのだが、全部没になってしまった。

 アスペクト比が違うとか、色合いがおかしいだとかいろいろ言っていたんだが、よくわからなかった。

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