紅玉のドラゴン

 大蛇が牙を剥きながら威嚇をしてくる。

 兎にも角にも動かない事には始まらない。

 ルミアとマトイと目配せをし同時に駆け出た。

 マトイが大蛇の目前に飛び込み、大蛇はそれを喰らおうと口を大きく開くが大きく回り込んだルミアが次いでリネルから教わったファイアーボールを大蛇の背に撃ち込む。そこでルミアの方に振り返った大蛇。


 その隙を私は見逃さない。

 高く飛び上がり大蛇の首目掛けて剣を振り下ろす。


 しかし剣はまるで鋼鉄の塊を叩いたかのように火花を散らし弾き返される。


「かったいわね」


 よく見れば鱗はまるで鉱石のように艶を帯びている。

 これではいくら叩いこうが致命傷を与えるのは無理だろう。

 ならば鱗の着いていないお腹側ならば刃が通るのではないか。


 そう思い隙を窺うが、自身ほどその弱点を知らないわけもない。

 私達がどうにかお腹に潜り込もうと探っているのを察したのか大蛇もそれをさせないように炎のブレスを吹き牽制をしてくる。


 私達は無理をしてここまで走って来た。体力だってそれ程残ってはいないのだ。

 どうにか早期に決着をつけなければならない。


 そう思っていた矢先、マトイが間合いを間違えたのか大蛇の尾に殴り飛ばされる。


「マトイ!」


 私が駆け寄るとマトイは口から血を吐いていた。

 しかしマトイは口に着いた血を腕で拭き取りながら立ち上がろうとする。その目には確かな殺意が満ちていた。

 今のマトイを放っておけば歯止めが聞かなくなる。

 そう思った私はマトイの肩を掴みどうにか宥める。


「駄目よ。無理はしないで」


 その間ルミアは大蛇の気を引く為に距離を保ちながら魔法を撃ち続けている。

 しかし教わったばかりの魔法はまるで効いていないようで、ジワジワとその距離を詰められている。


「嘘!?壁っ……」


 とうとう魔法を放ちながら後退していくルミアは壁にぶつかった。


「ヒヒ……蹴散らせ!そんな雑魚共さっさと……とこっちも早く準備しないと」


 男の言葉に大蛇は一気に距離を縮めルミアに激突した。


「うぐっ!」


 壁には大きなヒビが入りルミアはその場に倒れ込んだ。

 咄嗟にルミアの下へ駆け寄ると、どうには命は助かったらしい。

 マトイは体の痛みに動き出そうにも動けないらしく、膝を着いたまま動かない。今大蛇のヘイトは私にある。ならばルミアと距離をとって私一人でどうにかしなければ。


 それからヒイロと大蛇の攻防は続く。大蛇の牙や尾の攻撃を避け、受け流し、少しの隙に腹に潜り込もうとする。

 しかし大蛇もそうはさせてくれない。その硬い鱗でヒイロの攻撃を受けながらも牙を向く。しかしヒイロが腹へ潜り込もうとすれば身を引き、戸愚呂を巻き防御をかためる。


 私は体力も底を着きそうで息も切れ切れだ。この大蛇、自身の鱗に過信せずしっかりと私の動きを見て動いている。ただの魔物かとも思ったがどうにもそうは思えない。


 一体あの男とこの大蛇は何者なのだろうか。


「よし!準備が出来た!後はこの女を生贄にすればこの蛇も……あ?」

 

 戦闘が長引き過ぎて間に合わなかった、どうにかあの少女を助けないと。

 その一心で私は大蛇を放棄して男の下へ駆け出した。

 しかしその瞬間ドゴッという鈍い音を立てて横腹に大蛇の尾の攻撃を食らってしまった。


「止めようとしても無駄だ。やってしまえ」


 男が口を出そうとした時、同じ空間で身も震える程の濃密な魔力を感じ取った。大蛇のその魔力に反応して私への攻撃を止めその魔力の出処へと顔を向けた。

 私も横腹を抑えながら視線を向けるとそこに居たのはリネルだ。


「リネル!貴方だけでも逃げて!」


 しかし私の言葉は届かない様で、むしろこちらに向かって歩いてくる。

  

「僕はね、父様がずっと怖かったんだ。だから人前で魔法を使うのは避けてたし、そのせいであの時の父様の顔がフラッシュバックしてトラウマになった」


 リネルは独り言の様にぶつぶつと話しながらその歩みを止めようとしない。


「でもずっと思ってた。剣だろうが魔法だろうが、人を救う為に使うなら関係ないでしょって……」

「お願いリネル!私の言うことを聞いて!」


 するとリネルは足を止めた。しかし首を横に振り優しげな笑顔を私に向ける。


「いいえ、逃げません。もう過去は振り返らない。だから、私は堂々と魔法を使ってみせましょう」


 そしてリネルは大蛇へ向き直った。その表情は恐怖に怯えるでも、ましてや怒りにゆがませるでもない真剣な表情。

 しかし私に過去の話をしてくれた時と比べると、明らかに腫れ物が取れたとでも言う目をしている。

 

「ヒイロさん達には申し訳ないけど、君達には少し感謝してる。こんな状況にならなければ僕は変われなかった。冥土の土産に僕の1番得意な魔法を見せてあげるよ」


 するとリネルの右手の先に何重もの魔法陣が展開される。

 魔法陣が順に発動されると長細い岩が生成され、次第にそれは赤く光を帯びる。そしてその岩はその場でドロドロと溶けだし、凝縮されマグマの剣が完成した。


「さあ、始めようか。ルビーの鱗を持つドラゴン。その諸々を破壊して差し上げよう」


 それを戦闘開始の合図と受け取ったのかドラゴンはリネルへ向けてブレスを吐いて来る。しかしリネルは身体強化した足で地面を蹴り上げそれを避ける。


「ギャアアオ!?」


 自身の炎で飛んだリネルを失ったドラゴン。周りを確認してやっとリネルを見つけ出したがもう遅い。リネルはそのマグマの剣を振り下ろす所だった。


「僕の糧になってくれてありがとう」


 するとその剣は、ヒイロ達がまるで歯が立たなかった事が嘘かのようにドラゴンの首に吸い込まれていく。

 そしてドラゴンは首を両断され地響きを立てながら絶命した。


「後は、あの男だけだね」


 リネルがその男に向き直った時だった。


「あいつはまだ利用価値があるんだ。死なせる訳にはいかないよ」


 リネルのすぐ後ろ、長く伸ばした白髪の男が立っていた。

 全くリネル達に気取られる事なくここまで踏み入ってきた男。それにリネルは底知れぬ力の差を感じた。しかし男に殺気は感じない。戦うつもりはないのだろう。


 リネルとドラゴンの戦いに腰を抜かしてしまったのか、白衣の男は地面にへ垂れ込んでいる。それを白髪の男は肩に担ぐようにした。


「私の名前はレイル・ウィルベール。いつか君と戦える事を楽しみにしているよ。三人の姫君を救った勇敢な坊や」


 そう言ってレイルと名乗った男は転移魔法を使い白衣の男諸とも姿を消した。


 リネルは俯いて拳を握り込んでいる。それはそうだろう。あと少しで白衣の男を始末出来そうだった所を逃したのだから。

 私達は痛む体を引きずりながらリネルの下へと歩み寄った。リネルの肩へと手を当てた。


「僕は……」

 

 私達がリネルを慰めよう、そして感謝の言葉を述べようと口を開こうとした時リネルが叫ぶ。


「僕は女だああああああああああああああああああああああ!!」

「「「そっち!?」」」


 リネルは白髪の男に勘違いされた事をきっかけに髪を伸ばそうと心に誓ったのであった。



〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇


 久々に僕のコメント残しますね(汗

 リネルは初めはヒイロ達三人より強くするつもりではありましたが、ちょっと強くし過ぎましたかね?ヒロインが歯が立たなかった相手を一撃って!!!なんでやねん!

 まあそれはそれとして、これからもマイペースに書いていきますので、そうぞ生暖かい目で読んで頂ければ幸いです。

 ではまた!!

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