白衣の男の脅威
ヒイロ達は木々に囲まれた道を歩いている。これから危険な盗賊の調査に向かっている筈なのだが、木漏れ日やそよ風が気持ち良く気が緩んでしまう。
そんな時、突然ダンジョンのある方角から爆発音が聞こえてきた。
全員がその音に警戒しているとその方向から複数の冒険者が走ってくるのが見えた。
「おい!君達も逃げろ!最奥のモンスターが暴れたようでモンスターがダンジョンから溢れ出してる!」
それだけ告げて走って行った冒険者達。
今の話が本当なのであれば余計に放置する訳にはいかないのではないだろうか。三人を見ると考えている事は同じようである。
「魔物を抑えるわよ。準備は良い?」
木々の隙間から続々と魔物が現れてくる。
リネルは人の気が無くなったからか十分に魔法も扱えている。私達三人も魔物と戦った事は殆どないけれど、それでも善戦を崩す事は無かった。
それでもモンスターの波は止むことが無い。
おかしい、絶対におかしい。複数の階層に分かれていてそれなりに大きなダンジョンだと言うのは事前に調べていた事ではあるが、これだけの数の魔物が出て来るのはあり得ない。
だとしたらダンジョンで一体何が起きているのか。
普段から鍛えている私達は村でも体力お化けと揶揄される程だが、マトイもルミアももう息が切れている。リネルも魔法の発動が少し雑になってきている気がする。
しかし考えれば案外簡単なものだ。何故これだけの魔物が出て来るのか。ダンジョンの中で無限に魔物が産まれてきている?
そもそもダンジョンは魔物が自然と湧いてくる場所ではあるが、これは明らかに以上な数だ。何かダンジョン内で異変が起きている?ならばその根源を断ってしまえさえすれば。
もうずいぶんと魔物とも戦っている。逃げていた冒険者の中には魔法の身体強化でかなりのスピードで逃げている者も居た。ならばこの状況をギルドに伝え、オストポリに何か防衛の陣でも張ってくれるだろう。ならば私達のする事は。
「三人共、この魔物の数は以上よ。ダンジョンへ向かうわ。走れる?」
「ええ、まだ大丈夫」
「マトイを舐めて貰っちゃあ困るよ!」
「僕も身体強化魔法を使えば全然余裕です」
そして私達は神殿へ早足に向かった。
「何よこれ」
ルミアはこの光景にそんな言葉を漏らした。しかし私達も同じ気持ちである。
ダンジョンに到着しても魔物の死体が倒れているばかり。それも先程私達だ倒した魔物よりも弱い物ばかり、つまりは下層の魔物が逃げる時にやられたのだろう。
しかしこれ程の状況になるというのは一体この億で何があったのだろうか。
魔物は居ないが、私達は警戒を解かずに進んで行く。
するとダンジョンの奥、最下層から声が聞こえてきた。
「ああクソ!クソ!」
魔物達が逃げまどっていたダンジョンから人の声がする。原因はその人間だろう。そして私の当初の目的であった盗賊である可能性が高い。
しかしただの盗賊がこれ程の大がかりな事を何故行っているのか。
最下層の階段を下りると広々とした空間が広がっている。そこの最奥は祭壇になっており、ここがかつて何かの神殿であった事を窺わせる。
そしてその祭壇の前には白衣を着た男が一人と、祭壇で横たわる少女が一人居た。
私達が様子を窺っている間も尚、その白衣の男はぶつぶつと独り言を呟いていいる。
「あと一歩だったと言うのに、この数の魔物を退けたアホが居る。この作戦を失敗してしまえばあのお方に殺されるかもしれない。もはやこの不十分でな現身が壊れても他にも現身の候補はある。やむを得ないか」
そうして男は横たわる少女の下へと歩んでいく。
きっと話の内容からすればこのままではあの少女はきっと助けられなくなる。行くなら今しかないだろう。
「待ちなさい」
「あ……?」
私の言葉に男は首だけでこちらへとぐるりと向いてきた。
「貴方は今何をしようとしているの?最近このダンジョンに盗賊らしき人間が出入りしていると聞いた。貴方はその一人?」
「そうか、あの魔物達を退けたのはお前らか……」
男は睨むように眼光を強めた。その表情は怒りに満ちているが口は釣り合がり笑っているようにも見える。
私達4人は直感的に察する。こいつはこの件に関わる重要な人物であり、そして強い。
「ああ、答えになってなかったな。盗賊とは関わりはあるよ。でもあいつらはただの駒に過ぎない物だよ。崇高な目的の為のね」
そう言うと男は何かを思い返すように虚空を見つめ自分の体を抱きしめ顔を紅潮させた。
その様子は不気味で狂気じみた信仰心を抱く者の様である。
こういうタイプはいつ何をしでかすか分からない。
早急な対応をしなければあの少女がどうなるか分からない。直ぐに動かなけれならない。
「皆、やるよ。リネルは無理はしないでいいわ」
私とルミア、マトイは剣を抜く。
すると男は釣り上げた口を歪な程により釣り上げる。
「やるつもり?良いよ。お前らのせいで計画が崩れてイライラしてるんだ。お前ら殺してストレス発散だ」
男が手を上に振り上げた。
すると地響きと共にその空間の壁を破壊しながら大人でも容易に飲み込むほどの真っ赤な大蛇が現れた。
「っ……!?」
突如として現れたその大蛇の不意打ちな攻撃は何とか避ける事が出来た。
しかし、これは今までの魔物とは比べ物にならない。
「これに、勝たなきゃいけないの……?」
私は頬を伝う冷や汗を感じながら剣を強く握りしめた。
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