リネルの過去1
イエル王国パナプル領領主の邸宅にて、1人の少女は本を読んでいた。読んでいる本は魔法の教本である。
魔法は複雑なまほうじん魔法陣を暗記し、扱うには本人の魔力量やイメージ力等が必要になり、人から教わるのが普通である。
故に魔法を扱えるのは師事する事の出来る者を雇う事が出来る貴族が殆どだった。
本来ならば文字の読み書きが出来るようになる歳になってから教わるのだが、少女リネル・パナプルは違う。5歳にして文字の読み書きもでき、周りから天才だの将来有望等と持て囃された事がきっかけで本を読み始めるようになったのだ。
そして手に取った魔法の教本に強く惹かれた。
自らの力で火や水等を操る魔法、リネルはそれが使えるようになりたかった。
教本を読み見様見真似で試してみるが上手く行かない。
そして数日が経ち、リネルは自身の掌の上で小さな火を発生させる事に成功する。
「出来た……!」
嬉しかった。誰かに伝えたいと自室を飛び出しリビングへ駆ける。
リビングには両親と執事の3人が居る。
「お父様お母様見て!私魔法が使えるようになったの!」
リネルはそして先程と同じ様に掌に小さな火を燃やして見せる。
きっと皆褒めてくれるだろう。父は頭を撫でてくれる、母は抱きしめてくれるだろう。
しかしリネルのそんな期待は裏切られた。
突然現れた頬への強烈な痛み。それと同時にリネルの身体は宙へ浮いた。
床に打ち付けた身体を上げ父の方へと視線を向けると怒りに表情を歪ませていた。
母は私に駆け寄り、私を守るように抱き寄せる。
私は何か悪い事をしたのだろうか。ただ魔法を使っただけ、家の物を壊したわけでも人を傷つけた訳でもないのに、何故だろう殴られるのだろうか。
「貴様、パナプル家は代々優秀な騎士を輩出する家だ。騎士たるもの、それ以外に現を抜かす等言語道断。二度とそのようなもの使うな」
私を射殺すかの様なその視線は、渡しの脳裏に深く恐怖を植え付けた。
「本来なら学園への入学と同時に剣を教えるつもりだったが、もはや時期など構わん。来い」
母から私を引き剥がし、無理矢理に腕を引っ張って父は中庭へ向かった。
そしてわたしは私は父に木剣を渡され、父も木剣を握る。
「今日から剣の特訓を始める。死ぬ気でいろよ」
父は先程までの感情の乱れは見て取れない。しかし眼だけは未だ私を殺してしまおうかという眼のままである。
父は剣を教えると言ったのだ。しかしそれは特訓とは言い難いものだ。
私にとってはまだこの木剣ですら重い。自由に動かす事も出来ず、フラフラとしている私を父はその木剣を打ち込んで来る。
もはや立つこともままならない私は庭にただ横たわっていた。視線だけを動かし自分の身体を見るとあちこちに痣が出来ている。
しかし何時までもこんな所にいる訳にも行かない。私は這うようにして何とか自分の部屋まで戻った。
ベッドに横になり、動けない。何故こんな事をしなければならないのか、騎士とは皆こういうものなのか。考えれば考えるほど、私は騎士が嫌いになっていった。
そんな時、ふと私の頭を優しく撫でる感触があった。視線だけでそちらを見やるとそこには母が居た。
いつもの優しい笑顔ではあるものの、しかしその瞳には確かに私を心配してくれているのが見て取れる。
「リネル、守ってあげられなくてごめんなさい」
「お母様...」
リネルは声にならないような掠れた声だ。
その声を聞くや、母はより心配そうな表情になるが、直ぐにいつもの笑顔に戻った。
「もしリネルが望むなら、これからも魔法を練習すればいい。それは私も秘密にするわ。2人だけの内緒」
そういって小指を立てた手を私に近付けてくる。小さな頃から母と約束事をする時にいつもやっている指切りだ。
重たい腕を何とか持ち上げながら私は母の小指と自分の小指を絡ませた。
それと同時に心に決めた。絶対に誰もが羨む魔法使いになる。あの頭の硬い父にギャフンと言わせてやる。そして私の大好きな母は、私が守る。
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