爆弾が走ってきました?!

 村から程近く、かつてヒイロ達があの事件を引き起こした山の山頂付近に1人の女性がたっている。

 その片目には魔法陣が浮かんでいる。これは冒険者ならば必修と言われる望遠の魔法だ。

 そしてその女性はそこから苛立ちを見せながら村を見下ろしている。


「ヘマしやがって雑魚どもが。まあド底辺の盗賊でどうにかなると思ってた私も馬鹿だったか」


 その女性は眉間に寄せていた皺を戻し、次は笑った。


「でも貴方も強くなったのね。次会う時が楽しみだわ。ヒーちゃん」


 その笑顔をより強め歪に笑う女性は腰まで伸ばした栗色の髪を揺らしながら踵を返した。



――――――――――――――



 盗賊に村を襲撃されて1週間。ヒイロとルミアとマトイの3人はアシュを探す旅に向けて準備をしていた。

 村の皆の協力もあり、野宿に必要な物や武器を揃える事が出来たヒイロ達はいよいよ村を出る事にする。


 村の入口付近に多くの村人が集まっている。


「ヒイロちゃんルミアちゃんマトイちゃん。必ず元気で戻ってくるんだよ」


 村長は優しい笑顔で村人を代表して言う。

 それでも、これは自分の蒔いた種だ。例えこの命に変えてでもアシュを連れ戻さなければならない。

 どんなに謝っても、泣こうが喚こうがアシュは帰って来ない。ならば連れて帰るしかないのだ。


 そんなヒイロの考えを察してかジグーが前に出てくる。


「時々でいいから村に手紙を送ってくれ。そうしたら村の皆も安心する。くれぐれも気を付けてな」


 そう言って手を差し出してくる。

 ジグーとヒイロの間にはかつて犬猿の仲と言われた面影はもうない。

 ヒイロはジグーと握手を交わし気遣いへのお礼を言うと、気持ちを切り替えた。


「じゃあ皆、行ってきます。必ずアシュは連れて帰ります。それじゃあまた!」


 ヒイロ、それにルミアとマトイは村人の心配や期待を背負い村を後にするのだった。



 それからヒイロ達は商業都市オストポリを目指し歩みを進める。

 目的は冒険者ギルドの登録の為だ。王都にも冒険者登録の出来るギルドはあるのだが、国から独立した商業都市というものが世界中に幾つか存在する。そこの検問は王都程厳しくない上に依頼も豊富、故に危険な依頼も多い。詰まる所盗賊に関する依頼や情報も多いのだ。

 もしアシュが盗賊側の人間になっているのなら、何かしらの手掛かりが見つかるかもしれない。

 村から徒歩にして三日。近くに商業都市があったのは幸運でしかない。

 

 三人交代で見張りをしつつ野宿をしたり、旅は順調だった。

 三日目、あと数時間も歩けば商業都市に到着すると言う所、突如後ろから叫び声が聞こえてくる。


「ぎぃいやあああああああ!!逃げてえええええええええ!!」

「「「は……?」」」

 

 手にキノコを持って少年が猪に追いかけられてこちらへ走って来る。きっとあのキノコを巡って追いかけっこをしているのだろう。

 しかし、見た所あの手に持っているキノコは毒キノコだったような……?


 そこでルミアは不敵な笑みを浮かべた。

 三人を少年と猪が通り過ぎようとした時、ルミアは少年が手に持っていたキノコを抜き取った。

 すると少年は咄嗟に止まろうとして顔面がら地面に向かって倒れてしまう。そして猪は綺麗に急ブレーキをかけてルミアの方へ向き直った。

 鼻息を荒々しく吐き出す猪に向かってルミアは優しく話し掛けてキノコを差し出した。


「ごめんなさいね、貴方の食べ物人間が奪っちゃって」

「そ、それ僕の!」


 少年の言葉を無視して猪は恐る恐るルミアの方へ近づいて行き、そしてキノコを食べ始めた。

 親の形見を奪われたかの如き様相で崩れ落ちる少年にルミアは呆れたように言葉を掛けた。


「あのさ、これ毒キノコなんだけど知らないの?」

「え?」


 今にも泣きだしそうな表情から一転して顔を上げる少年。その目に飛び込んできたのは、泡を吹いて倒れている猪だった。


 自分が食べるとどうなっていたのか、それを想像した少年は顔面蒼白である。


「悪魔だ……」

「助けて貰っといて悪魔呼ばわりとは、良い度胸してるわね」


 少年が平然と毒キノコを猪に与えたルミアを見て呟くと、ルミアは指を鳴らしながら笑顔でそう言った。 


「ちょ、ごめんなさい!目笑ってないですよ!ねぇ!」


 ルミアが本当に殴りそうな雰囲気だったので、ヒイロが呆れて止めに入る。

 べそをかきながらヒイロの後ろに隠れる少年はガタガタと震えている。

 しかしこの通りは獣がよく出ると聞いていたが、何故こんな弱そうな子が1人で歩いているのだろうか。迷子?


「貴方の目的地はどこ?もしオストポリに行くのであれば同行してもいいけど、何だか心配だし」

「是非宜しくお願い致します!!」


 間髪入れずこちらへ土下座の体勢になる少年にヒイロは手を差し伸べる。その手を少年は握り立ち上がると、ルミアに改めて謝罪をした。

 

 立ち姿を改めて見ると本当に華奢である。

 ほっそりとした四肢に綺麗なくびれ、それにきめの細かいその肌は……ってもしかして。


「一応聞くのだけど、あなた男?」

「へ?僕は女ですよ。イエル王国のパナプル侯爵の一人娘、リネル・パナプルです」


 髪が短い女性は割とよく居る。マトイだって髪は短い。しかし私達を勘違いさせた要因は服装と一人称である。

 明らかに男物の服に一人称が「僕」であったなら男性と勘違いしてしまうのは無理もない。


 そんな事よりもだ。何故侯爵の娘ともあろう人が1人でこんな所を歩いているのだろうか。


「侯爵の娘がこんな所を1人で歩いてて大丈夫なの?」

「私家出してきたんです!」

「「「は……?」」」


 堂々と答えるリネルに対して3人は絶句をしてしまう。

 もしかすると私達、いきなりとんでもない爆弾を抱えてしまったんじゃないかしら……?


 堂々と胸を張る少女リネルに3人は、拭いきれない程の不安を抱くのであった。

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