アシュの所在
皆の下へ帰ってくると、村の自警団の者達が倒れたら盗賊達を縄で拘束をしている最中だった。
途中で目を覚ます者も居たが、武器を持った村人に囲まれて直ぐに取り押さえられている。
「お!英雄の二人が戻ってきたぞ!」
「負傷者の1人も出さないなんて凄いよな」
「ヒイロちゃんもジグーも毎日鍛錬に勤しんでたからな。そこらの盗賊なんか目じゃないぜ!」
口々にヒイロ達を称賛する村人達は皆満面の笑顔である。
そんな中ヒイロは飛び出そうな程大きく、そして早く脈打つ心臓を抑え込むように胸に手を当てとある人物の前で立ち止まる。
自警団の中で唯一暗い面持ちをした人物。アシュの父親、カイルである。
「あの……お話があるのですが」
私がそう声を掛けるとカイルはびくりと肩をふるわせた。
「え?……あ、うん。何だい?」
「大切なお話です。出来れば皆さんにもきいていただきたいのですが」
丁度盗賊たちの拘束を終わらせた自警団を見てヒイロは自警団の皆にも声をかけてみた。
するとカイルを先頭に皆がわらわらと集まってくる。
多くの視線を受けるヒイロはなかなか口を開くことが出来ないのを見てジグーがフォローを入れてくる。
「覚悟のいる話なんだ、少しだけ待ってあげて下さい」
ジグーのフォローや自警団の皆の優しい声がけに余計に言葉が出辛くなる。
でもこれを乗り越えなければ私は1歩も前に進めない。
再び覚悟を決めたヒイロはゆっくりと口を開く。
「皆さんにお話したかった事、10年前のアシュの失踪の事についてです……」
この言葉にその場は静まり返った。
そしてヒイロは言葉を続ける。
「あれは私に原因があるんです――」
ヒイロはその後あの事件について詳細を話していく。
その内容には目を見開いて驚く者も多い。それでも皆は静かに緋色の話を聞いてくれる。
しかしそんな中、1人膝を落として泣き崩れる者がいた。アシュの父親、カイルである。
「――本当に、ごめんなさい」
真っ直ぐカイルへ向いて頭を深々と下げるヒイロ。
それに答えるが如くカイルはよりその目に涙を浮かべる。
「罪滅ぼしになるとは思わないけれど、もしカイルさんの気が少しでも晴れるならこの命尽きるまで殴って貰っても構わない」
「違うんだ!!」
カイルは腕でその涙を拭いながら、夜闇に声を響かせる。
私やジグー、自警団の皆がその言葉の意図を理解出来ないでいると、カイルはそのまま言葉を続ける。
「実は昨日、うちに手紙が届いたんだ。その差出人はアシュだった……」
「っ!?」
自警団の中からはざわめきが生じ始める。
ヒイロは泣きそうになるのを堪えながら、アシュが生きていた事に表情を明るくさせカイルの下へ歩み寄り、震える声で静かに尋ねた。
「アシュは生きているんですね?」
カイルは首肯しながらも、でもと言葉を続けた。
「その手紙の内容は、まさに今日の夜。ヒイロちゃんを殺しにくるという内容だった。さっきヒイロちゃんが話したアシュの失踪の件についても詳細が書かれていた」
「じゃあカイルは知っててこの事黙ってたのか!」
自警団の中からはカイルの行いに対しての怒りから、様々な言葉が飛びててきている。
しかしヒイロはその事実を知った所でその顔を変えることは無かった。
だってアシュが生きていたのだから、私はそれだけで十分だ。例えアシュに命を狙われようとも、それは自分が原因なのだ。
しかしそこでジグーが先程から引っ掛かっていた疑問を口にする。
「そういえばさっきの盗賊達さ、逃げる時に姐さんって言ってたよな?これ程の数の盗賊を送り込むには相当金が必要になると思うんだが、もしかしてアシュって……」
そこでジグーは言葉を切った。
皆が想像したくないであろう推理。それはアシュが盗賊を仕向けたのではなく、盗賊側の人間になってしまっているという事である。
その場の人間は皆凍りついた。たとえジグーが言葉を濁したとしても、皆が同じ考えにたどり着いたのだ。
そこでカイルは立ち上がりヒイロの肩を掴んだ。未だ涙を流したまま。
「ヒイロちゃん。君はこの村で1番強いのは皆が知ってる。ヒイロちゃんを見殺し二しようとした分際でこんな事を言うのは間違ってると思う。でもお願いだ。アシュを――」
「分かってます。助け出します。次こそは絶対に逃げ出さない」
ヒイロは真っ直ぐな瞳でカイルを見つめながらそう宣言する。
「ちょっと待ってよ。ヒイロが行くなら私達も行くよ?」
「そーだよ。1人より3人のが良いでしょ?」
しかしそう割って入ったのはルミアとマトイだ。
親友の友を救う為とは言え簡単にそんな事を言う二人。
命の保証は無いのだ。それでも本当に着いてくると言うのか。
ヒイロはこんな時、決して友に危険が及ばない選択をするだろう。
それを知っている2人は、ヒイロが口を開こうとしたのを制止するかのように言葉を続けた。
「止めても無駄。覚悟は出来てるから」
「ヒイロにとって私達は親友じゃん?でもそれはマトイ達だって同じ事、親友をみすみす危険な場所に黙って送れる訳無いよ!」
「2人とも……わかった。3人でアシュを助けに行きましょう。昔の優しくていたずらっ子なアシュを」
そして3人はカイルへと向き直る。
「ありがとう……本当にありがとう……」
未だ止まぬカイルの涙は、自責の涙から感謝の涙へと変わっていた。
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