命を狙われたヒイロ
「お前がヒイロって奴だな?」
女性と首にナイフを突き立てそう言い放った盗賊。
ヒイロは捕らえられた女性がアシュとの最後の記憶と重なり、額から汗を流す。
この盗賊は私と事を知っている。目的は私ならば女性と引き換えに私が捕まればいい。
「私が目的ならその人と場所交代してもいいかしら」
両手を上げて歩み寄るヒイロ。
盗賊の目前に立ち止まり女性が解放された瞬間二つの影がヒイロの目の前に現れ、1人は盗賊の横顔を殴り飛ばしもう一人は女性を盗賊から遠ざけるよう引っ張った。
「私達の親友に指1本触れるな下衆が」
そこに立っていたのは殺気に満ちた瞳で気絶した盗賊を見下ろすマトイだった。
対してもう1人はルミア。パニック状態にある女性に優しく話しかけ落ち着かせようとしている。
「貴方達何で――」
「誰とは言わないけど、私達の親友はたまに無茶するから側に居てあげないと」
ルミアは親指を突き立て満面の笑顔をこちらへ向けてくる。
「親友……」
武器を持っている敵に迷いなく突撃したルミアとマトイを見て私はまた事件の事を思い出す。
もしもあの時私に二人のようでいられたなら、救えたのだろうか。
もっと友も自身も大切に出来ていたのなら……
「その女を逃がすなテメェら!」
村の物陰から次々と現れる盗賊達。その中の一人がナイフを片手にヒイロへ一直線に駆けてくる。
「私は……」
俯き、そして奥歯が砕けそうな程に噛みしめたヒイロ。
自分に向かってくる盗賊に真っ直ぐな瞳を向けた。覚悟を決めたその瞳はよもや視線だけで敵を射殺すが如く鋭く決して視線を外さない。^
「はああああああああああああああああ!!」
「覚悟は決めた。二度と失わない。友も……自分も!!」
刹那駆けた盗賊は姿を消した。
残り複数の盗賊には何が起こったかは分からなかった。しかし直後に聞こえた衝撃音に次第に理解をし始める。
「今やらなきゃいけない事は一人の犠牲も出さずにこいつらを撃退する事」
村を囲む壁が一部崩れるその目下、先程までヒイロに向かっていた盗賊が倒れている。
優勢かと勘違いしていた盗賊達は状況を理解し体中から汗が噴き出してくる。
「全員掛かって来なさい。私達三人で貴方達全員相手にしてあげるから」
先程までのネガティブな感情はヒイロにはない。確かに敵に真っ直ぐと向けられたその瞳には希望が溢れている。
「あ、ヒイロから攻めるなら指の数本触れちゃうかな!?」
「あっちから触れられないならいいんじゃない?」
この状況でもいつもと変わらない会話を繰り広げるルミアとマトイ。
私は本当に良い親友を持ったものだ。
こうして一晩掛けた盗賊対村の戦いが始まる。
ヒイロはあの事件以来、村と村の皆を守ると決めた。あらゆる武術を学び鍛錬してきたのだ。
そんな私を見て何故かルミアとマトイも武術を学び始めた。
それは私にとって切磋琢磨できる仲間が出来た事でより腕を磨く事ができ、気付けばヒイロ達の住む領地の領主の持つ騎士団に目を付けられる程にまでなっている。
マトイは持ち前の反射神経と動体視力で盗賊達を圧倒し、ルミアは女性を守るように向かってくる盗賊を次々と無力化する。
「こ、こんな強いなんて聞いてねぇぞ!」
「ひい!姐さん助けて!」
劣勢になるや否やその場から逃げ出そうとする盗賊達。
このまま森に逃げ込まれればこちらが振りになるかもしれない。深追いは危険か。
そう思った瞬間、先頭を走っていた盗賊が絶叫する。
「俺らの村に手出しといて逃がす訳ないだろう」
そこには刀身に血を流す剣を持ったジグーが立っていた。
戸惑い足を止めた盗賊達の隙を突いてヒイロとマトイは盗賊達を取り囲むように布陣する。
同じくその隙を突いて女性を逃がしたルミアも参加し、盗賊達は四方を囲まれる。
逃げ場を失った盗賊達はもはや作戦も無くただがむしゃらに武器を振るい向かってくる。
村の入口付近、乱戦の末私達は完勝した。
私とルミア、マトイは素手での応戦だったので盗賊と気絶させるのがせいぜいだったが、ジグーは普段身に着けている木剣とは違い真剣を持ってきていたので数人は既に絶命している。
のどかな村とはかけ離れた惨状に私達当事者と村の自警団、そして村長以外は今は外出厳禁となっている。
倒れた盗賊達を自警団の人達が続々と縄で縛っていく中、私はジグーに呼ばれて人気のない場所へと来ていた。
「ヒイロ、お前この街の英雄だな」
「貴方もでしょ?」
「あ……う、うん」
言葉に詰まり頭を掻くジグーは深呼吸をして落ち着いたのか、再び口を開く。
「アシュのご両親に――」
「謝るわ」
「へ……?」
想像していなかった返答に素っ頓狂な声を上げてしまうジグーにヒイロは今までジグーに見せなかった笑顔を見せた。
「貴方と皆のおかげで覚悟が出来たわ。ありがとう」
「……そっか。なら良いんだ。戻ろう」
こうして村一番の犬猿の仲と言われた二人は仲直りをし、盗賊の処理に追われる皆の下へと帰っていくのであった。
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