成人してもジグーとは相変わらず仲が悪いです

 あれから時は経ち私達は16歳になり成人した。私の交友関係にももちろん変化は起きている。

 あの後、日々いたずらばかりしていた私が急に大人しくなった事を心配して話しかけてくれていた人は沢山居たが、中でもずっと私に寄り添ってくれる人が2人ず居た。

 一人は肩まで伸ばした金髪に透き通るような碧眼のルミア、そしてもう一人は木の幹のような焦げ茶の髪を短く纏めた黄色い瞳のマトイ。

 ルミアとまといマトイは親友と呼べる存在になっていた。


「私達はもう成人したしさ、今日お酒でも飲んでみない?」

「マトイはもうお酒の味知ってるもんね!マトイが2人の事リードしてあげるよ!」

「それ自慢げに言うことじゃないでしょ?」


 自慢げに笑っているマトイにヒイロが突っ込むとマトイは舌を出して可愛らしく誤魔化そうとしている。

 マトイがやんちゃなのはいつもの事であり、ジト目でマトイを見つめる私達も小さくため息を吐いてその誤った行いをキツく咎めることは無い。

 ここがマトイの良い所でもあり、悪い所でもある。私もそんな所に引かれていると言うのは確かに間違いはない。


 お酒の話から話題を変え談笑している私達に、犬猿の仲である嫌な人物が近付いてくる。


「サボってないでさっさと仕事しろよ」


 そう話しかけて来たのはジグーである。

 開口一番から苛立ちを見せるようなその言い方は私達にもその苛立ちを伝染させる。

 そもそもサボっているのでは無くあくまで休憩中に3人で話していただけだと言うのに、何だろうかこの物言いは。


「今は休憩中なの!部外者はどっか行ってくれない?」


 反撃するルミア。マトイはそれに便乗してそーだそーだと拳を振り上げて叫んでいる。


「ちっ……いいから行けよ!ヒイロに話があんだよ……」


 あくまで高慢な態度を変えることはないが、少し表情を曇らせてジグーは言った。

 彼の雰囲気を察してかルミアとマトイも渋々とその場を後にする。


「何よ話って」

「もう成人したんだ。村の皆に10年前の事件の事打ち明けるべきなんじゃないか?」


 ジグーの言葉にヒイロはびくりと肩を震わせた。


「何で……何で貴方が知ってんのよ……」


 この10年間ずっと黙ってきた。誰にも知られていないと思っていた。なのにジグーはその事を知っている。

 罪の重さは知っている。あれから二度とあんな事が無いように、村人の皆を守れるように身体を鍛えあらゆる武術も習得してきた。いたずらも辞め、むしろそれはを咎める側になった。

 

 成人という節目である。知られていた事は仕方がない、しかし何故10年も黙っていたのに今更この話を持ち出したのだろうか。

 

「ちゃんと村の皆に話したらどうなんだ。何時まで経ってもお前の罪が許される訳じゃないだろ」

「貴方には関係ないでしょ」


 不貞腐れたような態度を取ったヒイロに対してジグーは苛立ちを見せ、ヒイロの胸ぐらを掴み拳を振り上げるがギリギリの所で踏み留まった。


「関係無いだって?アシュは同じ村の仲間だろうが……」


 胸ぐらを掴んだ手を解き、奥歯を噛みしめるジグー。

 そうでもしなければ本当に手を出してしまいかねないのだ。


「……考えとくわよ」

 

 そんな言葉を吐いて去っていくヒイロの背中をジグーはただ黙って見つめるのみである。

 

 普段はヒイロといがみ合っているジグーだが、本当はジグーもヒイロを心配しているのだ。

 次期村長としてジグーは幼い頃から誰よりも村と村人の事を思っている。ただ少々荒っぽい口調のせいでそれに気付いている人物は誰も居ない。


 もちろんアシュの失踪の原因がヒイロにある事を悟った時は煮え滾る様な怒りが込み上げてきた。それから暫くはヒイロには強く当たっていた事もある。しかしその事件後からヒイロがまるで別人になったのではないかと思う程の変化を見ていたジグーは、次第にヒイロへの怒りは収まり心配するようになっていったのだ。


「あいつが許されるには自分の口で両親にちゃんと謝罪をする事、それしかない。俺に出来る事はこれくらいしかないのかな……」


 仕事に戻って行ったヒイロの向かった方角、村の外に広がる畑の方角を見てジグーはそんな事を呟き自身も仕事に戻っていくのであった。



 ――――――――――――――――――――――――――――


 

 その夜ヒイロは眠れないでいた。もちろん理由は昼間のジグーとのやり取りが原因だ。


 ジグーの言っていた事は私だって正しいと思う。いつまでも黙っている訳にはいかない。

 しかしアシュの両親に謝って許されるのだろうか。今更どんな顔をして謝ればいいのだろうか。


 私があの日から人が変わったようになったのは、親友のアシュが失踪した事で悲しんでいるからだとアシュの両親は勘違いをした。

 それ以来アシュの両親は私に気を遣い優しく接してくれた。


「やっぱりこのままじゃ駄目よね……少し散歩でもしようかしら」


 寒い時期は過ぎたものの、夜はまだまだ冷え込むので上着を羽織り外へ向かう。


 村の中、外を出歩く者はもう殆どいない。静かな夜に足音を響かせ向かった先は子供達が集まり遊んでいる広場だ。

 私も昔はよくここで遊んだ。今はいないアシュと2人で。


 月の明かりでほんのりと照らされたその広場に、ヒイロはかつてこの場で遊んでいた自分達の姿を写し、静かな溜め息を吐いた。


 ぼんやりと月を眺めながら何と謝るべきか思案していた時である。

 

「キャアアアアア!!」


 女性の叫び声、距離的には村の中だ。

 ヒイロは叫び声の方向に駆け出した。


「何だ何だ?」

「何があった?」

  

 村人達も何事かと家々から出てきている。

 嫌な予感がする。

 それは直感でしかないが、何かが起こるとヒイロは確信づいていた。

 

 叫び声を上げた女性の下へと辿り着いたヒイロはその光景にフラッシュバックした記憶から冷や汗が吹き出してくる。


「お前がヒイロって奴だな?」


 見るからに盗賊風の格好をした男が女性の首にナイフを突き立ててニヤリと笑った。

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