第0章11話【相性最悪】-立て直し-
暫くしないうちにヴァルエにも治療のための責任者が来た。ドアをノックされ返事をする。
奴
機械は正確で精密だ。全てを機械に任せた方がより効率的になる。であるならば、なぜ今だに医療施設に人を配置しているのか。
そう、機械には責任はとれない。だからこそ責任者と呼ばれる人が存在する。
精神を安定させるために人を必要としている場合もあるらしいが、結局はいくら機械化を進めようが人が生きていく上には人が必要になるというわけだ。
だが、人は所詮人だ。時には感情が邪魔をし、正しい判断ができなくなることもある。
「ではヴァルエ…さん、軽い健診と治療を行いますので私の後を続いてください。」
そう責任者は丁寧な言葉を使い案内しようとしているが声は低く、明らかに軽蔑するような目を向けていた。
「…」
歩く。その血に濡れた脚を擦ってでも。
端的に言えば、現時点で、ヒューム(人種)は亜人に対して強い差別意識が存在する。依然として浅い歴史に囚われる人は多い。
ヴァルエはこれまでそう感じ生きてきた。これまでもこれからも変わらずその蔑まれた生き方を強いられるのだろうと思っていた。
…イミヤと出会う前までは。
↓↓↓
ピッピッピッ…………
面白みのない機械音がその部屋に反響し、朝日が白いカーテン越しにイミヤの頬を照らす。
その光が眩しかったのかイミヤの瞼がピクリと反応し、そのままゆったりと開いた。
雑音すらせず、静寂に包まれた不自然な場所だった。
いや違う、音が存在し続ける所に慣れすぎたのだ。ぼわぼわとした不可思議な感覚がイミヤを酔わせる。
長時間任務続きだったからか十分な睡眠を取れたのは久しく少しばかりか身体に違和感を覚える。
「ここは…」
イミヤは体を上げて周囲を見回そうとすると布団以上の重みを感じ、その方向を見た。
「ッッ!?」
「…ヴァルエさん?こんなところで寝ちゃだめですよ。」
そこにはパイプ椅子に座り、うつ伏せになってイミヤの横で眠るヴァルエの姿があった。
存在するという実感がイミヤの不安を直ぐに打ち払った。
その声に反応しヴァルエの耳がピクリと動いたと思ったら、そのままの勢いでイミヤに抱き着いた。
「良かった。本当に良かった。」
「そんなに心配しなくても私はどこにも行きませんよ。」
正直に言えば抱きしめられて苦しかったが、そっとヴァルエの顔を覗き込むとそのことを言う気がなくなってしまった。
「それで私はどれ程の時間、気を失ったんですか?それと、今の状況は?」
「あれから一日たって丁度今は朝。…で、インディゴちゃんはGVで待機中。あいつは昨日出てったきり見てない。」
途中、何か後ろめたい事があったのか少し目線を病室の隅に逸らす。
ヴァルエは口にするか悩んだのか、一泊置きそれから口を開いた。
「起きたてのイミヤちゃんには悪いんだけど一つ聞きたいことがあるの。…奴は誰なの?イミヤちゃんの知り合いだとは思うんだけど…。」
「奴というのは、ヘクタのことでしょうか?ヘクタが何か?」
そう口にするとその言葉にヴァルエは毛が逆立ち少し殺気立ったように見えた。
「それって、イミヤちゃんを置いていなくなった元リーダーってことよね?」
「えぇ…。そうですが。でもっ…」
イミヤが口を開く前にガラッと音を立ててドアが開い…
………
「ヘクタっ!」
ものすごい衝撃だった。首元がヴァルエの腕で抑えられ、後ろにある壁から離そうとしない。逃げ道などないと言ったような勢いで私を彼女は制圧した。
「お前かぁあああ。イミヤちゃんを独り置いて急に消えた奴っていうのはぁああ。」
ヴァルエは誰から見ても燃えるように怒り、激動にその身を委ねる。
「どれだけ、イミヤちゃんが傷ついたのか。わかってるのっ!!!???」
それでも流し目で居続けるヘクタに苛つきを感じ、さらに力を加えた。
短剣の傷口が開き、包帯を滲ませる。溢れた血液が床に垂れ、つぅっと広がり、右足から滴り続ける。
呆れなのか、諦めからなのかその表情からは読み取ることは出来なかった。
「ッッ…。」
喉を締め付ける力が強すぎて呼吸がうまくできず、言葉を上手く吐き出せない。が、それでもヘクタは言葉を紡いだ。
「悪かったとは…思ってるさ…」
私はそう思っている筈だ。そう考える筈だ。
「だったらどうして姿を消したっ!どれだけ…どれだけイミヤちゃんがっ………!!」
それはもう崩れそうな声量で…
「もうやめてくださいっっ!!」
悲痛な叫びが、静かな病室に虚しく反響する。
「今はこうして戻ってきてくれました。既にヘクタとも話しました。それでいいじゃないですか。いえ、それでいいんです。今争っていても何も解決しません。」
次第に声量が落ちていき…
「せめても今だけでも仲良くしてください…。」
イミヤは自身のリーダーとしての素質がないことが、悔しくて悔しくて俯いた。
その瞳には何も映らない。何も映せない。
ヴァルエは自身の考え方に嫌気がさした。
そう、彼にも事情というものがある。生きているのだから、人それぞれに自分の人生というものがあるのだ。他人がとやかく言う事ではない。
自分の道は自分で決めるように他者に縛られることなど本来なら許せないことだった。いや、許されない筈なのだ。
「ごめん。冷静じゃなかった。」
そう言い、ヘクタを乱雑に下ろした。咳き込む彼を見る。目を細め端的に一言。
「でも、許したわけじゃないから。」
乱雑にドアを開け、彼女はそう去り際に呟いていった。
アーテルヘクタ~青年は今日もこの地で生きることを知る~ しよ_ @shiyo_moso
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