0章特別話【◼️◼️◼️◼️】-バレンタイン-



 イミヤは壮絶に悩んでいた。


 今年もバレンタインの時期がやってきた。

 こんな世界だが、文化は保護すべきだの何だのと非営利団体が騒ぎ立てるもので、それに乗るべくして乗った市民達も囃し立てるのだ。


 まぁ、そんな話はどうでも良い。


 今日は2月14日なのだ。今は考えるべきことがある!


 『なぜ当日に悩んでいるのか?』ですか?仕方なかったんです!連日ワーマナに寝泊まりで書類仕事を進めていたんです。誰かさんが居なくなった穴埋めをしなければならいんですよ。


 それに2月は気の緩みが発生し易いので、些細なミスが大事になって更に仕事が増すんですよ。

 その作業にも当てられて、最後にお家に帰れたのがいつなのか記憶が……。


 って違います。また話が脱線してます…。



「んー…。ヘクタに渡す物ですからちゃんとしたものを贈りたいのはそうなんですが…。」



 人差し指を下顎に添えながらキッチンであろうところでウロチョロとする。

 動けば良い案が浮かび易いらしいので実際試しているのだ!



「はっ。もしかして、同じ部署の社員さんの分も買わなくちゃいけない!?でしたら、早く出掛けなければ行けませんね……。」



 動いた結果、浮かび上がったのが社員の義務チョコとはイミヤらしいといえばらしいが………。


 スッ。ウィーン


 オートロック式の扉が開いた音がしたのでそちらに目を向けると…



「イミヤちゃんはっけーん!!なになにー?もしかしてバレンタインチョコ作ろーとしてたでしょー??」



 そうニヤニヤしながらヴァルエはちょかいを出してきた。



「ヴァルエさん!そうですね…。作ろうか悩んでいたんですけれど、作ろうにも量が多くなってしまいそうなので、市販の物を今から購入しに行こうかと思ってました。」


「ふーん?まぁ別にいいけどぉー。あっ!じゃあ今からインディゴちゃんも呼んで3人で買いに行かなーい?ショッピングできたら楽しいよ。気分転換にもなるだろぉーし?」


「うーん。そうですね……。インディゴさんが宜しければ、私もご一緒させて貰おうかな。」


「オッケェイ。ちょっと連絡するねー?『インディゴちゃーん。今からショッピングに行くよー。そうそうイミヤちゃんと一緒に。うんうん。行けるねー?うん。行くよねー?そうだねー?もちろん行くよね?はーいバイバーイ。』って事でさぁ行こー!!!!」


「半ば強引でしたよね?」


「気のせいでしょ?」


「……。」



 こうしてショッピングに行くことがものの数分で決まりました。

 久しぶりに3人で買い物が出来ることが嬉しいことは内緒です。





→→→





「人が多い。」


「多いですね。」



 ヴァルエはそう言いながらテンションがあからさまに下がっている事が目に見えてわかる。



「それはそう。だってバレンタイン。わかってたでしょ。」


「そうなんだけどさぁー………。っ!!!!あれは!かわいー。バレンタイン限定商品!どうしようかなぁ。……。」



 子供のようにキャッキャ跳ねるヴァルエ。



「もう帰ってもいい?」


「あはは。」



 インディゴは嘆息しながら一応確認と言わんばかりにあたりを見回す。

 欲しいものが無いようだ。残念。



「それで?リーダーも欲しいものがあったんでしょ?」


「そうですね。同じ部署の社員さん達に配る為の適当な物が欲しいんですけれど…。」


「……。それいる?」


「いりますよ。一応立派な組織なんですから、士気は上げておいて損はないですよ。それに、皆さん大切な仲間なんですから。」


「わかった。好きにして。私はリーダーに着いてく。」


「そうですね……。あっ!あれとかはどうでしょうか。有名所が出している小包に小分けにされた水滴のチョコです。一袋に8パック。お値段はそれなりですが、良い気がします。」


「んー?いいんじゃないの?美味しそう。けど、予算は大丈夫?」


「予算はオーバーはしますけれど、時間も惜しいです。これにしましょう。」


「なら、私も少し出す。」


「良いんですか?」


「リーダーだけに負担を掛けるわけにはいかない。後であの能天気にも払わせる。」


「能天気ってのは私のことかなー?」


「うひゃあぁっ!?!?」



 突然の真後ろからの登場に動揺を隠せなかったイミヤ。彼女は悪くないのにねー?



「ちょっとイミヤちゃんが驚いてどーするの。」



 インディゴは、淡白に言葉を続ける。



「能天気。事実でしょ?」


「んー??」



 笑顔がいつもより怖い気がします。背中にゾゾゾってくるような…。冷や汗が止まりません…。



「それより。んっ。」


「わーかったわかった。ほらほら、イミヤちゃん、はいどーぞ。」


「あ、ありがとうございます。あ、はい。そうです。その商品を10袋です。はい。ラッピングは大丈夫です。」



 暫くすると紙袋に纏まった商品が店員さんの手から渡される。

 受け取った商品を確認すると、持ち手の部分がリボンで結ばれていた。こう言う気遣いができるからこその有名店なのだ。細かい。



「これで欲しいものは全部買えたねー?」



 そうヴァルエさんは私たちを眺める。



「結局私何の為に来させられたの?」


「んー?楽しかったからいいでしょー?」


「部屋で本を読んでた方が良かった。」


「まぁでも良い気分転換になった。でしょ?」



 そう言うヴァルエに嘆息しつつ、渋々付き合うのがインディゴなのだ。



「さぁて帰りますかぁ。」


「………。」



 これで、ようやく社員さんに配る為のチョコを用意できました。


 けれど、この鬱憤とした気持ちは晴れる事なく有り続けた。

 理由は分かっている。でも、まだ買いたいものがあるだなんて、そんな事を口が裂けても言えなくて……。



「それでぇ?イミヤちゃんは言いたいことがあるならはっきり言った方が良いと思うよー?」



 ヴァルエさんは私達の目の前に立ち塞がり、耳を傾ける。



「それは…。その。……はい。」


「よーし。それじゃ買い物の続き行っくよぉ。勿論インディゴちゃんも一緒に見てまわってくれるよね?」



 そして、返答も待たずにそのまま片足で一回転してトテテテとそのまま走り去ってしまった。

 その場に残された2人は…。



「そんなに分かりやすいですか?私。」


「………。そんな事は…ない。」


「その間は何ですか…。」



 イミヤは顔が気になるようで、ムニムニと触っていた。

 そんな様子のイミヤに微笑ましく思ったのかインディゴは静かに彼女の頭を撫でた。


 こうして無事に買い物を終えることが出来たのでした。





→→→





 退社時間になる前に社員さん達に、ヴァルエさん達と一緒にその購入したチョコを渡す。

 中には喜び、跳ね上がり、涙を流し崩れ、女神だ。などと叫んでいる者もいるようだったが、ヴァルエさんにしっかりと絞られているようだった。

 それでも、喜んでもらえて一安心。


 あとは……。






→→→





 ヘクタの部屋の前まで来たがノックできずにいた。

 普段通りならこんな事を気にすることもなく部屋に入って雑談を少しだけして。連絡を取り合ってるはずなのに……。ただそれだけの事なのだ。だけど…。



 胸が熱く、頬は染まり、上手く言い表せない。



 身体がとにかく暑い。冷や汗が止まらず、少し手も震えているようだ。


 行きたくても行けなくて。そばに寄りたくても寄れなくて。



 それでも………。それでも私は………………。




「ヘクタっ!」





-\HAPPY VALENTINE/-

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