第0章10話【流動転換】-イシ-


 暫くGVaを進め、水の都と謳われるニュンベルクまで辿り着く。辺りが砂地から突然活気のある街に変わり、ある程度整備された道が進路を示してくれる。


 そんな道を進み…


 近くにある医療施設に向かう。


 到着と同時に速攻でイミヤを下ろし、その施設にヴァルエがイミヤを抱え込んで連れ込んだのだが…。




「すみません。現在治療できない状況でして…。特にその申し上げ難いのですが…。」




 先程から受付はワーマナ関係者の立ち入りは許可されていないの一点張り。


 ヴァルエは納得できず今にも受付に噛み付きに行きそうだ。


 ワーマナを強調しているところを見るに、簡単な話、組織的なしがらみがあると憶測できる。


 が、そもそもこの施設は所属関係なく、治療を行う国営的な場所であるはずなのだが、それすらも効果が無い。



 とすると、この治療施設は……。



「これはワーマナのみなさんではないですか。」



 騒ぎを聞きつけた院長らしき人物が奥から出てきた。それを見てヘクタは前に出た。




「彼女を治療してもらいたい。もちろん治療費は払う。それにまだここは中立都市だったはずだ。」



 一応要望を伝えたが、このままでは上手くいくとも思えない。


 もし仮に受けられないとすればイミヤはどうなるのだろうか。

 そんな不安が頭を掻き乱すように……よぎる。



「治療したいのは山々なんですが…。」



 そこで院長は口を噤んだ。サタブラッドの圧力がかかっているのだろう。この都市も既にサタブラッドに、よりに近しいということ。


 通りであの石油プラントを軽々放棄できるわけだ。



 しかし、ここで引くわけにはいかない。

 ヴァルエの機嫌もますます悪くなるばかりだ。抑えているようだが、先ほどから院長に殺気を浴びせているような気もする。


 こうなれば、金銭以外の価値を。その人にとっての最大限の価値をつける必要がある。そして、その方法には一つ心当たりがあった。リスクは高いが、やる価値はあるだろう。



「わかった。ならこれならどうだ。」



 といい、ポケットから端末を出し、その端末を表示させて院長に向ける。



「こ、これは…本気ですか?」


「ああ、これが治療の報酬…いや、対価だ。もちろん口外はするな。」


「…そこまでおっしゃるのでしたら、わかりました。では、彼女をこちらへ。」



 そうして、イミヤを医写いしゃに預けると、緊急治療室へ運ばれていった。







↓↓↓







 その後、インディゴにはGVaに戻ってもらい、ヴァルエと共に待合室で待つことになった。 

 身動きするだけでも音が反響するような白い部屋に通される。コツコツと医写いしゃの歩く音が次第に遠くなると…


 ようやく二人になったのを見計らいヴァルエはヘクタにずっと我慢していた疑問を投げかける。



「イミヤちゃんを本当にこの施設に預けて良かったの?」


「そもそも、その選択肢しか存在しないだろう?向こうも向こうで事情がある。無理を通したんだ。こちらから信用を通すしかない。」


「だからと言って……」



 何かを追求しようとして押し黙ってしまった。このまま話していても埒らちが明かないことに気が付いたのだろう。



「それとあの時、何したの?」


「これだよ。」



 そういいながら先ほど見せた端末をそのまま見せる。



「なにこれ。図面?」


「そうだ、どうせ向こうもその気だ。先手を打つ。」


「つまり、ここに存在するサタブラッドを殲滅するってこと?この人数で?」


「あぁ。」



 ヴァルエの目は更にけわしくなり…



「私は、反対だよ。そんな危険なことする気はないし、イミヤちゃんをこれ以上危険な目に合わせる前にワーマナに戻る。」


「帰還途中に奇襲をかけられるか、こちらが奇襲仕掛けるか。どちらが戦闘に勝つ確率が高いかと聞かれれば当然後者だろう?なにより、結局君らの任務が原因でこれからより対立が深まって、盛んにあちこちで乱戦が行われるようになる。先にするか後にするかくらいの差だ。」



 すっと立ち上がり、ヴァルエの方に流れる様に目線を向ける。



「今の戦い方は数よりも個の強さだ。だから、若い男は徴兵され肉体労働を強要され、若い女はアーテルの強さにより、高度な技術を教養される。」



 そうこれが今の世。アーテルがもたらし、覆すことができない国が出した結論だ。



「…なら尚更よかったの?知りもしないような院長に対して、露見させて…。当然サタブラッドも対応してより厳しくなるでしょ?」


「彼は元から反サタブラッド派だ。最後まで、この病院をサタブラッドの支配下に入る事を拒絶していた。」


「……そう、でイミヤちゃんは連れて行くの?ここに置いて行くのは私嫌だよ。」


「治療が終わって意識が回復するまで私が一人で動く。ヴァルエ達はイミヤのそばにいてやればいいさ。」



 ヴァルエは不機嫌そうな顔をしつつ背を向ける私に声をかけた。



「最後に聞いておく。ずっと気になってた。……あなたは誰?」


「私は………いや、必要ないだろう。今話すべきことではない。」


 その答えに納得できないヴァルエは見方を変える。



「言い方を変える。あなたは誰の味方?」



 呼び止めるように問いかけたヴァルエの問いは……



「……イミヤだよ。」



 そう言いヘクタは殺風景な白い廊下を歩き進めた。

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