幕間 神託

「マデライン様!大変なことが起きましたわ——っ!」


シャルロッテ様の指導が終わり、沈む直前の太陽が真紅に輝く頃。月光神殿に着いたベアトリーチェを、神官の仲間が慌ただしく迎え出た。神官の女性は真っ青になって震え、せっかく整えた美しい髪も衣乱れてしまっている。


「どうなさったのです、クラリア様。そう走っては、せっかくの衣が——」

「“呪い”です!かつての黒紋が遺した“呪い”が、今再び動き出したとの神託が下りました‼」

「……っ‼」


さすがに言葉を失う。だが他の神官と違って意識までは失わないのは、さすが神殿副長と言ったところか。あくまでも冷静にベアトリーチェは問うた。

「それで、神託の詳細は?」


「それが……呪いの影響で神の力も衰えているそうで、“黒紋の呪いが発動した”以外の言葉を残されなかったのです」


たかが一人間が遺した呪いが、神の力を蝕む。その端緒にすぎない現時点でこれだ、拡がればどれほどの被害をもたらすか……。


「……そう。このことは国王夫妻には伝えたわね?神殿緊急会議を開くわ、集まれる者は全員、大聖堂内に集まるよう手配して」

「はいっ!」

クラリアが駆けていく。黒く滲んでいく未来予想図に、ベアトリーチェは唇を強く噛んで慟哭を堪えた。

国レベルでの魔力衰退も、おそらく呪いの一角にすぎないだろう。フレーラン王国が闇に沈む黎明期。その景色を染め上げるのは、血のように赫い夕陽だった。

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