女の趣味だけは似てしまった二卵性双生児姉妹が親の再婚でできた妹に一目惚れしてしまい二人協力したり反目したりして妹を落とす百合

@nagarechan

第1話

 初めて恋をした。

 一目惚れだった。

 相手は妹だけど……でも、親の再婚でできた義理の妹だし、大したことではないはず。

 そんなことより、とてつもなく大きな問題がわたしの、いえ、わたしたちの前にそびえたっていた。


「姉ちゃん、今日の春ちゃん目覚まし当番はわたしだよ? 抜け駆けは禁止って言ったよね?」

「ギリギリまで寝てたのはどこの真央さんでしょうね? 春ちゃんが寝坊したらどうするつもり?」


 信じられないことに、双子の姉まで新しくできた妹・春子に一目惚れしてしまっていたのだった!



 姉…美央とわたしこと真央は双子なのにまったくと言っていいほど似ていない。わたしがとにかく休日を友達と遊ぶ予定でいっぱいにしてしまうタイプなのに対して、美央は孤高のクールビューティーといった感じ。服の趣味だって合わないし、好きな食べ物もまるで違う。昔流行ったらしい「プロフ帳」をお互いに書いたとしたら、名字と名前の「央」、誕生日以外はすべて一致しないだろう。

 それが女の子の趣味だけは一致してしまうなんて!


「ギリギリって言っても5分前には起きてきましたー。間に合えば十分でしょ?」

「へえ? そんな寝ぼけた格好を春ちゃんに見せてもいいんだ? 私なら身支度してから起こしに来るけどな」

「春ちゃんとわたしはすっごーく気安い関係なので。姉ちゃんと違って見せられない姿なんて存在しませーん」


 バチバチ。どっか行け!と美央をにらんでやると、彼女もにらみ返してきて火花が飛び散る。

 とくだん仲が悪いわけじゃないわたしたちだけど、春ちゃんのこととなると別。一歩も譲ることはできない。

 ともかく、今日はわたしに春ちゃんの自室(本人に似てめちゃくちゃかわいい)に入る権利がある。美央にはドアの前からどいてもらわなくちゃいけない。そして寝顔をたっぷり3分くらい拝むのだ。

 どう言えばこのクソ姉を丸め込めるかと寝起きの頭を捻っていると、ふいにドアが開いた。


「おはよう、おねえちゃんたち。こんなところでなにしてるの?」


 ドアから出てきたのは、とうぜん、春ちゃん。ああ今日もかわいいねえ半開きのまぶたもちょっとはねた前髪もいとおしいしパジャマも似合って……ってちょっと待って着崩れてるよそれはまずいまずい見えてはいけないところが見えそう見ちゃいたい……じゃなかった直してあげないと。

 そっと襟元を直してやると美央の方から恨みがましい視線を感じる。それでいいのか、姉よ。


「ごめん、起こしちゃった?」

「もう起きないと遅刻しちゃうよ」

「自分で起きられて春ちゃんはえらいねえ」

「もう中学1年生だし当たり前だよお」


 春ちゃんは目をこすりながら洗面所へと歩いていった。目覚まし当番は空振りに終わっちゃったけど、その代わり普段と違う会話ができた。よし。次からはもっと早起きしなくちゃ。

 後に残された美央の方を振り向くと、なんと天を仰ぎながら涙を流していた。

 

「うわどうした」

「てぇてぇ……」

「は?」

「寝起きの春ちゃん、可愛すぎる……生きててよかった……」

「分かる……」


 分かりすぎる。春ちゃんはいつもぽやっとしてるけど、寝起きは特に無防備な感じがあってたまらん。むふ。っと失礼つい気持ち悪くなってしまいました。反省。

 美央はライバルには違いない。けれど同志でもある。春ちゃん、たまらん!となった時にその気持ちを共有できるのは間違いなくこの姉なのだった。


「はあ……これで真央がいなければのべつまくなしにアタックしまくってあっという間に落としちゃうのに」


 うわ台無しになった。


「そんなに上手くいくわけないでしょ」

「そう? 例えば今日だって、もしあんたがいなけりゃ起きる直前の春ちゃんの耳元で『春ちゃんは私のことが好き、春ちゃんは私のことが好き』って洗脳を」

「人の感情をコントロールしようとすな!」

「じゃああんただったらどうするのよ」

「そりゃもう王道で行くのよ。まずデートに誘うでしょ? ところどころで気遣いを見せたり、スキンシップを増やして意識させて、あとは機を見てロマンチックなシチュエーションで告白して押し切っちゃうっていう作戦」

「そんなにのんびりしてたらほかの女に取られちゃうんじゃない?」


 そんなことは分かっている。

 春ちゃんほど魅力的な存在を、女も男も放っておくわけがない。


「……だから、姉ちゃんなんかと協定を結んでるんじゃんか」


 美央も、同じ懸念を抱いていたようで。

 ゆえに、春ちゃんをこの世にうごめく有象無象から守るための協定を結んだのだ。

 わたしたちは、春ちゃんのことが大好きだから、春ちゃんには幸せになってもらいたい。そしてできれば、その幸せがわたしであってほしい(姉は「私であってほしい」と思っていることだろう)。

 そのためには、まずどこぞの馬の骨が近づけないようにしないといけなかった。でもわたし一人ではとても手が回らない。そのためには美央の力を借りる必要があった。けれども協力相手はあくまでもライバルでもあって。ただスクラムを組もうとしても、早晩、いがみ合って崩れてしまうのは目に見えていた。

 だからこそ、協定には「お互い抜け駆けをしないこと」、「機会は均等に設けること」とも決めることにした。とはいえ、お互いに気を急いて、今日みたいなことにもなるんだけど……。


「はあ、春ちゃんがあんなにかわいいのがいけないんだわ。どうしてあの子はこんなに私を狂わせるのかしら……」


 フラフラとリビングに歩いていく美央を見送ると、ぐぅ、とお腹が鳴った。

 朝からカロリーの高いやり取りをしたせいか、だいぶとお腹が減ってしまったらしい。

 今日はパンを1枚多くトーストしよう。わたしもリビングへと向かった。

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