第47話
「シルキーと一緒に探しに来てくれたのね。とても嬉しいわ。」
私に微笑みかけてくる王妃殿下の顔は見たことがあった。
保護猫施設で良く顔を合わせていた人。
そう。保護猫施設長でもあるナーガさんだ。
「……ナーガさん?」
私の口から擦れた声が漏れ出る。
驚きで頭がいっぱいだ。
「ふふふっ。そうよ。マリアちゃん、あなたのお陰で私たちがここにいることがわかったそうね。ありがとう。」
「い、いいえ。私には過ぎたお言葉です。私は、ナーガさんが王妃殿下だと知らずに大変失礼な態度をとってしまいました。心より謝罪申し上げます。」
ナーガさん……もとい王妃殿下はにこにこ笑っているが、私はいたたまれない気持ちでいっぱいだ。
今まで気軽に話しかけていた人がまさか王妃殿下だったなんて。
失礼なことをいっぱいしたような気がする。挨拶だって、ごくごく普通の挨拶を交わしていただけで、王妃殿下に対する態度ではなかった。
今まで頭と身体がくっついているだけでも奇跡というものだ。
王族に対する不敬な扱いは万死に値するというのがこの国には根付いている。
「気にしなくていいわ。身分を偽っていたのは私だもの。」
「お、恐れ多いお言葉にございます。」
「あらあら。本当に気にしないで、マリアちゃん。私は全然怒ってなんかいないわ。それに、マリアちゃんはナーガに対しても不敬なふるまいはしていないわよ。マリアちゃんはちゃんとに誠意をもって人にも猫にも接している。それはわかっているわ。」
「お、恐れ入りまするでございまする……。」
「ぷっ。言葉がおかしいわよ、マリアちゃん。」
かしこまりすぎて言葉が上手くしゃべれない。自分が正しい言葉を使っているのどうかも危うくなってきた。
王妃殿下はそんな私に微笑んだ。
「今回の功労者はシルキーとマリアちゃんね。まあ、シルキーは何もしていないような気もしなくはないけれど。後片付けを済ませたら盛大に慰労会をしましょうね。」
「わ、私はそんな大したことはなにも……。」
王妃殿下の言葉に私は更に恐縮してしまう。
「構いませんよ。マリアちゃん。王妃殿下はマリアちゃんのことをとても気にいっておいでなのです。それに……。」
「それに……?」
「ユリア。それ以上はまだ内緒ですよ。さあさ、後片付けをしちゃいましょうね。」
私たちは王妃殿下の合図でこの事件の後片付けに追われたのだった。
ちなみに後日の取り調べでわかったのだが、国王陛下と王妃殿下を守っていた近衛兵たちはユフェライラ様が部屋の中に入ってきた時からの記憶が一切なかったということだった。
☆☆☆☆☆
あの後、国王陛下と王妃殿下はユフェライラ様によって囚われていたところを第一王位継承者であるシルキー殿下が助けたと大々的に民に対して伝えられた。
そして、ユフェライラ様は国王陛下と王妃殿下に危害を加え、自らが国を手中に収めようとしたことに対して罰が与えられることになった。ユフェライラ様の息子であるユースフェルト王子殿下は実は国王陛下の子供ではないことがユフェライラ様への尋問の結果判明した。
ユースフェルト王子殿下も、アンナライラ嬢と同じくユフェライラ様によって造り出された存在だったということが明らかになった。
国王陛下の実子ではないことが判明したユースフェルト王子殿下は廃嫡が決まった。
ユースフェルト王子殿下に明確な罰は与えられることはなかったが、自らの母親であるユフェライラ様の過ちと、アンナライラ嬢への想いで修復困難なほど精神を壊しており、実質王家が管理する屋敷へと軟禁された状態である。
ユフェライラ様は国王陛下、王妃殿下、シルキー第一王子殿下の殺害を企て国家転覆を謀ったとして、投獄されたのち絞首刑を言い渡された。
こうして、ユフェライラ様による一連の事件は無事にシルキー殿下の手によって全てが解決されたのだった。
国王陛下と王妃殿下はシルキー殿下の手柄を認め、シルキー殿下を次期王位継承者として正式に国民に発表をおこなった。
最初は今まで表舞台に姿を現さなかったシルキー殿下に国民は不信感を抱いていたが、国王陛下と王妃殿下を救出したという話が広まると、あっという間にシルキー殿下は次期国王として国民に支持されることとなった。
かく言う私も、シルキー殿下と共に国王陛下と王妃殿下を救ったとされ、一躍時の人となった。そして、その功績が讃えられ、私はユースフェルト殿下の婚約者からシルキー殿下の婚約者へとなったのだった。
「……マリア。これでよかったのか。君は王妃になるよりも、ずっと保護猫施設に居た時の方が輝いていたような気がする。」
王妃教育で疲労困憊の私を見て、シルキー殿下が眉を寄せた。
「でも、王妃殿下であらせられるナーガ様は保護猫施設に頻繁に顔を出されているわ。王妃になっても保護猫施設に出入りしてはいけないわけではないでしょう?」
「それは、そうだが……。」
「私は猫様たちに幸せになってもらいたい。そのために時期王妃になるの。王妃になって国民と猫様のために生涯を尽くすわ。」
キラキラと目を輝かせて将来を見据える。
王妃になることが悪いことではない。
この国を、猫様たちをより幸せに導いていくことが可能になるかもしれないからだ。
「……オレのためには生涯をつくしてくれないのか?」
シルキー殿下が拗ねたように小さく呟いた。
ほんと、シルキー殿下は長年猫の姿でいたからか、猫のようなところがある。
「そうね。ブチ様のためだったら生涯をつくすわ。」
私はそう言ってニッコリと笑った。
終わり。
長らくお付き合いくださり有難うございました。
次回作にもお付き合いくださると嬉しいです。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる 葉柚 @hayu_uduki
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