第14話




「あっ、あのっ!ユースフェルト殿下っ!」


 門番Aはアンナライラと一緒に王宮内に入っていこうとするユースフェルトに声をかけた。


「なんだ?私は今から父上と義母上の元に行くところなんだ。用があるなら手短に言え。」


 ユースフェルトはアンナライラの腰を抱き留めながら門番Aに振り向いた。ユースフェルトの眼光は鋭い。


「しっ……失礼ながら申し上げますっ!そちらのナンクルナーイ男爵令嬢は本日王様との謁見の予定はございません。」


「そうだが?それがなにか?」


 門番Aの言葉にユースフェルトは眉をひそめた。

 

「ユースフェルト殿下の婚約者であろうと王宮内に入るのであれば正式な許可が必要になります。私どもは許可のある人間以外をお通しすることはできません。」


「ほぉ?アンナライラは将来王妃になるのだ。王妃が王宮に入るのに許可はいらぬよな?」


 ユースフェルトは門番Aを睨みつける。

 

「失礼ながら、ユースフェルト殿下。ナンクルナーイ男爵令嬢はまだ王妃ではございません。」


 門番Bは勇気を振り絞ってユースフェルト殿下に進言する。

 

 いくらユースフェルトの婚約者であっても、門番の職務としては許可のないアンナライラを王宮内に入れることはできないのだ。

 

 実は王と王妃からも城門を守る門番たちに秘かな命がくだされていた。

 

 ユースフェルトが独断で人を王宮に招くことを阻むようにとの命令がくだされているのだ。

 

 王も王妃も最近のユースフェルトの目に余る越権行為に目を光らせているためだ。

 

「アンナライラは王妃になる。必ずだ。だから何も問題はない。」


 だが、いくら門番たちが頑張っても相手はこの国の王子だ。力づくで止めることなど出来るはずがない。

 

「……将来王妃になられる方かもしれませんが、まだナンクルナーイ男爵令嬢は王妃ではございません。許可のないナンクルナーイ男爵令嬢を入れたとあっては私どもの首が飛んでしまいます。」


「……まずは正式にナンクルナーイ男爵令嬢が王宮に入る許可をとってくださいませ。ユースフェルト殿下。」


 門番Aと門番Bは低姿勢でユースフェルトにお願いをする。だが、地位としてはユースフェルトの方が遥かに格上だ。


「ふんっ。お前たちは将来王妃になるアンナライラに不敬を働いた。その時点でお前たちは罪人だ。罪人は捕えなければな。衛兵たちよ!この者らを捕えよ!!」


 ユースフェルトは声高らかに命じた。


 ユースフェルトに命令された衛兵たちは顔を見合わせた。

 

 どう考えても門番に非はないのだ。それなのに捕えろというユースフェルトに従えるはずもない。

 

 ナンクルナーイ男爵令嬢がユースフェルトの婚約者になったという話などここにいる誰もが聞いてはいない。

 

 それはつまり、まだ王たちが内密にしているのか、本人たちが勝手に婚約者と言い張っているかのどちらかだ。


「どうしたのだ!早くこの罪人らを捕えろっ!!」


 ユースフェルトは自分の命令に従おうとしない衛兵たちに再度声を張り上げる。


「……恐れながらユースフェルト殿下。彼らは職務を全うしたに過ぎません。捕えるわけにはいきません。」


 衛兵の一人が声を上げる。

 

 他の衛兵たちも「うん。うん。」と首を縦に振っている。

 

「おまえらっ!私の言う事が聞けぬのかっ!!」


 ユースフェルトは衛兵たちに向かって怒鳴る。

 

「……恐れながらユースフェルト殿下。私どもはこの王宮を守る兵にございます。罪もない門番たちを捕まえることなどできません。どうかご理解ください。」


 衛兵がユースフェルトに謝罪するが、ユースフェルトの怒りは頂点に達した。


「私はこの国の王子だぞ!次期国王なんだぞ!!その私の命令が聞けないとはどういうことだ!!この国の衛兵は皆無能なのかっ!!」


 この騒ぎに王城で働いている者、王宮の近くにいた者たちが続々と集まってきた。

 

「この騒ぎはなにがあったんだ?」


「ああ。なんでもユースフェルト殿下の言う事を聞かない門番がいてな……。」


「でも、ありゃあ見てたが門番は不審者が王宮に入らないように職務を全うしてただけだと思うぞ?」


「相手はユースフェルト殿下の婚約者だとか?」


「綺麗なご令嬢だなぁ。」


「ほんとうに殿下の婚約者なのか?アマリア様が婚約者だろう?」


「ああ。確かにユースフェルト殿下の婚約者はアマリア様だったなぁ。」


「そういや、あのユースフェルト殿下の隣にいる女、こないだ街で見かけたぞ。レストランの店員に怒鳴ってたなぁ。「私はこの国の次期王妃よ!なんで平民と同じ列に並ばなきゃならないの!」って。その言葉に耳を疑ったのを覚えているよ。」


「うわぁ。そんな奴が王妃になるなんてこの国は終わりだろう。」


「その話、本当か?」


「あ、私もあの女性みたことあるわ!綺麗な子ねぇって思ってたんだけど、こないだ保護猫施設の前で怒鳴っていたわ。「私はユースフェルト殿下の婚約者なのよ!!」とかなんとか言っていたわねぇ。きっと保護猫の里親になろうとして断られたんだろうねぇ。まあ、あの性格なら納得だけど……。」


「……婚約者があの女性って、ユースフェルト殿下は本気で言っているのだろうか?」


「国王陛下がお認めになったとはとても思えないわね。」


「あら、ユースフェルト殿下って国王陛下の妾妃に無理やりなった方が母親なのでしょう?やっぱり分別が……。」


「あの時は王妃様がとてもお可哀想で不憫で……。」


「国王陛下は妾妃様に薬を盛られたんじゃないかって噂もあったわよね。」


「……国王陛下の息子だとは思えないよな。ユースフェルト殿下のあの性格は……。」


「まさか、妾妃様は……。」


 ユースフェルトとアンナライラが騒ぎを起こせば起こすほど、周りがユースフェルトとアンナライラは厄介な人間だと思うのであった。







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