第13話





「この中に、第一王子殿下が……いる?」


 私は混乱しながら保護猫施設にいる猫様たちを見回した。

 

 ユリアさんの言葉から私はこの保護猫施設の中に第一王子殿下がいるのだと思った。

 

 ユリアさんが事情に詳しいのは、王妃様から猫になった第一王子殿下のことを頼まれているのではないかと推測したのだ。

 

 いったい、どの猫様が第一王子殿下なのだろうか。

 

 私はユースフェルト殿下の婚約者なのに、第一王子のお名前しか知らない。容姿もまったく知らなかった。表舞台に出てこないと有名だったが、誰もその容姿を知らなかったのだ。

 

 ユースフェルト殿下と第一王子殿下であるシルキー殿下の年齢は5歳ほど離れているという。

 

 シルキー殿下が猫になった理由を考えると、きっとシルキー殿下が5歳の頃から猫の姿なのだろう。だから誰もシルキー殿下のお姿を知らないのだと思われる。

 

「……シルキー様?確かにとっても高貴な猫様に見えるけれど、ユリアさんが第一王子殿下と同じ名前であえて呼ぶなんてことしないわよね。」


 名前が同じシルキー様。見た目も風格が現れており、王様然とした態度をしていることが多い。

 

 でも、猫の姿にしてまで隠したかったシルキー殿下のことを同じ名前で呼ぶとはどうしても思えないのだ。まあ、この保護猫施設の中ではシルキー様が一番王子様っぽい立ち居振る舞いをしているし、見た目も一番豪華で綺麗だ。

 

 シルキー様には王子様の中の王子様といった貫禄がある。

 

 ただ、シルキー様は……雌なのだ。

 

 まさか猫の姿になるときに性別までも変えてしまったのだろうか。


「にゃあ。」


 考えこんでいるとシルキー様が近寄ってきた。なんてタイミングなのだろう。

 

「シルキー様。あなたは王子殿下なの?」


 私は反射的にシルキー様を抱き上げると、ぎゅっと抱きしめていた。

 

 もし、シルキー様が本当に王子様だったとしたならば、私は不敬罪にあたりそうだ。

 

「にゃあ?」


 シルキー様は私の言葉がわかっていないのか、首を傾げて鳴いた。

 

 ……シルキー様ではないとしたらいったいどの猫様がシルキー殿下なのだろうか。

 




☆☆☆☆☆







「王様と王妃様に会いたいの。会わせてちょうだい。」


 アンナライラは王城の門まで怒りの勢いに任せて来たが、門番に中に入るのを止められた。

 

 アンナライラはにっこり笑いながら門番に頼むが、もちろんイエスというはずがない。

 

「申し訳ございません。謁見のお約束がない方にはお会いすることができません。まずは、あちらで謁見の申請をしてはいかがでしょうか。」


「そうなの?でも、私は急いで王様と王妃様にお会いしたいの。ね?お願い?」


 アンナライラは目に涙を溜めて、門番を上目遣いで見つめる。

 

「あ……うぅ。困ったなぁ。」


 門番はアンナライラの可愛さにうっかり職務を忘れて門を通したくなる。


「おい!仕事なんだ!約束もない誰かもわからない人物を王宮に入れるわけにはいかないだろう。」


 アンナライラに魅了された門番Aは困った表情を浮かべたが、その様子を見ていた門番Bがアンナライラに待ったをかけた。

 

「まあ。私はユースフェリア様の婚約者のアンナライラ・ナンクルナーイですわ。」


 アンナライラはにっこり笑いながら自己紹介する。


「……アンナライラ・ナンクルナーイ嬢ですか?」


「ユースフェリア殿下の婚約者はアマリア侯爵令嬢だと聞いていたが……。どういうことだ?」


 門番Aと門番Bは互いに困惑したように顔を見合わせた。

 

 ユースフェリアとアマリアの婚約が破棄されたということはまだ王宮に務めている者でもごく一部の者しか知らされていないのだ。

 

 そして、アンナライラはまだユースフェリアと婚約をしていない。そのため、門番たちはユースフェリアの婚約者という言葉に首を傾げたのだった。

 

「アンナライラは私を呪ったから、ユースフェリア様の婚約者には相応しくないとして婚約を破棄されたのよ。王様から聞かされていないのかしら?私がユースフェリア様の婚約者に決まったことも知らされていないだなんて……。もういいわ。ユースフェリア様を呼んでくださる?ユースフェリア様なら私がユースフェリア様の婚約者だって知っていますもの。」


 門番とこれ以上言い合っても仕方がないと思ったアンナライラはユースフェリアを呼んでもらうことにした。一国の王子を呼び出すのが不敬にあたると思っていないアンナライラだった。


「……なんだか、この女性は魅力的だが、ユースフェリア殿下のことをなんだと思っているんだ?」


「ああ。ユースフェリア殿下を呼び出すとか正気じゃない。」


「そういやぁ、ナンクルナーイって家名は男爵家、だよな?」


「ああ。そういや男爵家にそんな家名あったな。ユースフェリア殿下の婚約者になれる身分なのか?」


 門番たちはアンナライラへの返答に困り、二人は顔を見合わせながらコソコソと話し合う。


「ああ。アンナライラ来ていたのか。」


 そこに、王宮の門にピンク色の髪の女性がいるという騒ぎを聞きつけてもしやアンナライラでは?と思ったユースフェリアがやってきた。


「ねえ、ユースフェリア様ぁ。私、王様と王妃様にお会いしたいの。お会いできるようにお願い出来ないかしら?」


 アンナライラは嬉しそうにユースフェリアに抱きつき耳元で囁くようにお願いする。


「あ、ああ。アンナライラ……。父上と義母上の元に案内するよ。」


 ユースフェリアは熱に浮かされたような目をしてアンナライラのお願いに答えた。


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