第12話
「ふぅ。まったく困ったお嬢さんだわ。」
アンナライラ様の対応をしていたユリアさんが疲れたような表情をしながら戻ってきた。
「対応していただき有難うございます。」
「いいのよ。でも、あの子ね。マリアちゃんを苛めていたという子は。」
「まあ、いじめというか……。根も葉もないことを言われていただけといいますか……。」
「でも、マリアちゃんの婚約者はあの子に盗られてしまったのでしょう?」
「ええ。ですが、私は元婚約者に未練はありませんので。むしろ、家の都合で婚約されられておりましたが、あの方と私は最初から性格があいませんでした。」
「そうよねぇ。あの馬鹿王子じゃあマリアちゃんとは釣り合わないわよねぇ。」
ユリアさんはポツリと呟いた。
あれ?そう言えば私の婚約者が王子だってユリアさんに言ったっけ?侯爵家の令嬢だっていうこともユリアさんには伝えていないはずだ。貴族の令嬢だってことは伝えてあるけど。
伝えたというより、私の所作で貴族の令嬢だとユリアさんが気づいたということの方が正しいが。
「……ユリアさんは、ユースフェリア王子と面識がおありなのですか?」
「ん?ええ、まあねぇ。王妃様も大変よねぇ。妾妃様にユースフェリア王子が御生まれになってから、王妃様がお産みになった第一王子が命の危険にさらされてね。仕方なく第一王子を猫の姿にして……ってこんな話はマリアちゃんにすべきではなかったわね。ごめんなさい。忘れてちょうだい。」
「え?どこかの王子様が呪いで猫の姿に……っていうのは本当だったんですか?」
ユリアさんは途中まで言ってから慌てて口を閉ざした。
きっと、私には言ってはいけないことだったのだろう。
だけれども、ユリアさんの話の内容が私にはとても気になった。
確かにこの国には第一王子殿下がいる。それは国民だったら誰でも知っていることだ。
しかしながら、なぜだか第一王子殿下はお姿を見せたことがない。
その代わりに第二王子であるユースフェリア殿下が前に立っているので第一王子殿下よりも目立っているのも事実だ。
ゆえに国民の間では第一王子殿下ではなく第二王子のユースフェリア殿下が次期国王だと噂されている。
「そうねぇ……。マリアちゃんには言う予定はなかったんだけど……。本当よ。この国の第一王子殿下は、暗殺されないように今は猫の姿になっているわ。まあ……ちょっとの間だけだったんだけどねぇ。政務の時は元の姿に戻す予定だったのよ。でもちょっとした手違いでね……元の姿に戻れなくなっちゃったのよねぇ。うふふ。」
ユリアさんは困っているように呟いたが、どこか楽しそうでもあった。
でも、なんでユリアさんはそんな大事な秘密を詳細まで知っているのだろうか……。
今までも謎の多い人だったけど、さらにユリアさんの謎が深まった。
☆☆☆☆☆
「ナーガ様。申し訳ございません。第一王子が猫の姿になっていることをアマリアちゃんにお伝えしてしまいました。アンナライラが保護猫施設に乗り込んできて私も気が立っていたようです。つい、思わず……。大変申し訳ございません。」
真夜中に保護猫施設にナーガが立ち寄った際、ユリアから本日の保護猫施設の状況報告を受けた。
ナーガはユリアの言葉に「ふぅ。」と深いため息をついた。
「わざとでしょ。絶対わざとだわ。ユリアがそんなへまをするはずがないもの。いくらアンナライラが来たからってユリアがそんなへまをすることはまずないわ。」
ナーガは豊かな髪を靡かせてユリアをジトッと見つめる。
ユリアは小さく舌を出した。
「まあ。やっぱりナーガ様に嘘はつけませんね。そろそろアマリアちゃんに教えても良いかと思いまして。お伝えいたしましたわ。」
「そう……。それで?どの猫が第一王子だかは伝えたのかしら?」
「いいえ。伝えておりませんわ。そこはアマリアちゃんに当ててほしくて。」
ナーガの問いかけにユリアはにっこりと笑いながら答える。
「まったく、ユリアは……。」
「うふふ。だって、第一王子殿下を元の姿に戻すためには、アマリアちゃんの協力が必要でしょう?アマリアちゃん自身が気づかなければ王子殿下は元の姿に戻れませんわ。」
「はあ……。まったく、ユリアはそこまで計算しているのね。ということは、やっぱり王子が元の姿に戻れなかったのは貴女の所為ね。魔法が失敗したのではなくて、貴女がわざとアマリアちゃんじゃないと魔法が解けないようにした。そういうことでしょう?」
「うふふ。間違えちゃったのよ。」
ナーガの問いかけにユリアは笑いながら答えた。
ナーガは大きなため息をついた。
「まあ、いいわ。あの子が元の姿に戻って王位を継承してくれるのならそれで構わない。それにしても、アンナライラの効果は抜群ね。アンナライラに傾倒するユースフェリアの姿に、ユースフェリア側の重役たちの支持がみるみる落ちていっているわ。あの女狐の悔しそうな顔ったらとても愉快だったわ。」
「うふふ。ユースフェリア殿下の失脚とともに、隠されていたシルキー殿下が登場する。シルキー殿下の初舞台ですわね。」
「そうね。あの子たちには頑張ってもらわないと。」
ユリアとナーガは顔を見合わせて微笑みあった。
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