第9話




「うふふ。すべては私の計画通りに進んでいるわ。怖いくらいに計画通りね。」


 アンナライラは学園長の部屋を出て一人になるとクスクスと笑いだした。

 

 学園長はアンナライラの訴えに「わかった。追放することとしよう。」と言った。

 

 誰を追放するのか学園長は一言も言わなかったが、アンナライラはアマリアを追放するように訴えたのだ。だから、アンナライラはアマリアが学園から追放されるものだと信じて疑わなかった。もちろん、ユースフェリア王子もだ。

 

「邪魔な悪役令嬢のアマリアを学園から追い出したでしょ。それから保護猫施設にいるシルキー王子を我が家に迎え入れる。保護猫施設から連れ出されたことを感謝したシルキー王子は私に一目ぼれして、私はこの国の王妃になるの。なんて素晴らしいのかしら。」


 アンナライラは幸せな未来を夢見て微笑んだ。

 

「それにしても、流石に私はヒロインだけあるわ。私の魅力で誰も彼もが私の言うなりだもの。特にユースフェリア王子は私に言いなりだわ。このままユースフェリアルートも良いけど、私は隠しキャラのシルキーの方が好きなのよね。だから、ごめんなさいね。ユースフェリア様。あなたはシルキー様と私が結ばれるまでの間のお遊びなのよ。うふふ。」


 アンナライラは嬉しさのあまり大きな独り言を呟いた。それを後をつけていたウェインが録音しているとも知らずに。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 時はアンナライラが学園長室を去った後に遡る。

 

「ウェイン……アンナライラ男爵令嬢を見張っていろ。アマリア侯爵令嬢を陥れた証拠が見つかり次第、私に知らせるのだ。」


「はい。かしこまりました。」


「あれは危険な女だ。必ず証拠をつかんで追放せねばならぬ。国王陛下にも急いで知らせねばならぬな。しばらくは忙しくなりそうだ。」


 学園長とウェインは秘かにアンナライラを学園から追放するために調査を始めたのだった。




☆☆☆☆☆







「あっ、シルキー様。ご機嫌いかがでしょうか?健康チェックは問題なかったのでしょうか?」


 ナーガさんがいなくなってからしばらくして、ユリアさんに抱きかかえられてシルキー様が奥から姿を現した。

 

「ふふふっ。マリアちゃんは本当にシルキーのことが好きね。大丈夫よ。シルキーは健康そのものよ。」


 ユリアさんはにっこり笑いながら私にシルキー様を手渡してきた。

 

 私はシルキ様ーのふわふわな身体をギュッと抱きしめる。

 

「シルキー様ぁ。私はシルキー様には幸せになってもらいたいのです。シルキー様にナンクルナーイ男爵令嬢とのご縁があったようですが、申し訳ございません。私は彼女のことがどうにも気にかかるのです。シルキー様を家族に迎えたいというのが私に対する当てつけのように感じられて……。シルキー様が幸せに暮らせるようにナーガさんが調べてくださるようですので、トライアルまでもうしばらくお待ちください。」


 私は健康チェックを受けて疲れてぐったりしているシルキー様に頬ずりしながら告げる。

 

「ああ。幸せ。私はシルキー様の体温をこの身に感じられて幸せですわっ!」


「ふふふっ。ほんとマリアちゃんって面白いわよねぇ。」


 ユリアさんはそう言ってシルキー様と戯れる私を微笑ましそうに見つめていた。

 

 

 



☆☆☆☆☆


「シルキーが狙われているだと?」


「はい。陛下。ナンクルナーイ男爵令嬢がシルキーを迎え入れたいと言ってきました。シルキーに会う前からシルキーの容姿と名前をぴったりと当てて指定してきましたわ。」


 王宮の一室で国王陛下と美しい女性が向かい合って話し合っている。

 

 内容はシルキーのことについてだ。

 

「ナンクルナーイ男爵令嬢か……。たしか、ユースフェリアにも近づいてアマリア侯爵令嬢との婚約破棄の原因になったと聞いたが、そのナンクルナーイ男爵令嬢で間違いないか?」


 国王陛下は確かめるように女性に尋ねる。

 

「はい。間違いございません。アマリア侯爵令嬢からもそのように聞いております。」


「……そうか。」


 国王陛下は頷くとゆっくりと目を伏せた。


「……その分だと、ナンクルナーイ男爵令嬢は第一王子であるシルキーが猫の姿であると知っているようだな。」


「ええ。そのようですわ。」


「ふむ。だが、シルキーがどの猫かまでは把握しきれていないようだな。ユリアの機転が利いたようだな。」


「はい。本当に。ユリアはとても頭の良い女性で頼りになりますわ。私とシルキーにはなくてはならない女性ですわ。」


 女性はにっこりと笑った。


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