第7話
「ユースフェリア王子。どういうことですか?アマリア嬢を学園から追放するなど。いくらあなた様がこの国の王子だとしても、なんの落ち度もないアマリア嬢を学園から追放することはできません。」
学園の教師であるウェインは、静かな怒りをこめてユースフェリアに言う。しかしながら、ユースフェリアはウェインの言うことなどどこ吹く風であった。
「ふんっ。アマリアがアンナライラを呪ったのだから追放するのが妥当だろう。」
「そ、そうですわ。アマリア様は私を呪ったのです。私がユースフェリア様と仲が良いからと私に焼き餅を焼いて、人としてしてはいけないことをアマリア様は私になさったのです。ユースフェリア様は、そんなアマリア様を公平な立場で罰してくださったのです。」
アンナライラは目に涙をこれでもかというほど溜めてウェインを上目遣いで見つめた。大抵の男はアンナライラのその表情でアンナライラに同情心を抱く。アンナライラはそれを知っていて自分の容姿を最大限利用しているのだ。
「公平な立場なら学園長に直談判するのが筋だ。だいたいアマリア嬢が呪いをかけたという証拠はあるのか。証拠もないのにアマリア嬢を追放したのではあるまいな?」
「まあ。証拠だなんて……。アマリア様に呪われた私が言うのです。それが証拠です。」
「どいつもこいつも証拠を示せとうるさいものだ。実際にアマリアに呪われたアンナライラが言うのだからそれが真実なのだ。」
「……はあ。証拠はないということですね。」
「だから証拠はあると!!」
ウェインはユーフェリアとアンナライラの言葉に大きなため息をついた。
「……証拠があるにしろ無いにしろ、この学園の決定権は学園長にあります。アマリア嬢のことも学園長が判断するのが筋です。いくらあなた様がこの国の王子であろうとも、この学園の決定権は学園長にあります。その学園長に断りもなくアマリア嬢を学園から追放した。これはゆゆしき自体です。私から学園長には報告させていただきます。」
ウェインは怒鳴りたい気持ちを押さえてつとめて冷静に言う。
「ふんっ。学園長も私と同じ判断をするだろう。私の判断が間違うはずがないのだ。」
「あ、あの。呪われた当事者の私も一緒に学園長のところに行きます。私が学園長にアマリア様が私を呪ったことを事細かく説明させていただきます。そして、どうかアマリア様が心を入れ替えてくれるようにと。」
アンナライラは良い子を演じる。あくまでも悪いのはアマリアである、と。学園長すらも自分の味方にしてしまおうとアンナライラは考えていた。
☆☆☆☆☆
「……ユースフェリア王子とアンナライラ男爵令嬢だったかな?ウェイン先生?なんで二人がここにいるんでしょうかね?」
初老の男性……この学園の学園長であるアリットソン学園長はにこやかな笑みを浮かべながらウェインに尋ねた。
「はっ……。ユースフェリア王子とアンナライラ男爵令嬢が結託してアマリア侯爵令嬢を学園から勝手に追放いたしました。そのご報告にあがりました。」
ウェインは事実をそのまま告げる。これにはにこやかな笑みを浮かべていたアリットソン学園長も眉間に皺を寄せた。
「……アマリア侯爵令嬢を、追放……しただと……?誰の権限があってのことだ……?私はそんな指示などだしてはいないが……。それにアマリア侯爵令嬢は追放されるような素行の悪い生徒ではなかったはずだ。むしろ学園の全生徒の模範と言っても良いほどの立派な令嬢だったと記憶している。……私のあずかり知らぬところでなにがあったのだ?」
アリットソン学園長は困惑した様子を見せて首を捻っている。
アリットソン学園長は礼儀正しく品行方正なアマリアのことを思い出して「ありえない。」と何度も呟いている。
「学園長……いえ、叔父上。アマリアはここにいるアンナライラを卑怯にも呪ったのです。ですから、私の判断で学園から追放いたしました。人を呪うだなんてそんな酷いことをするような女なのです。アマリアは。このままアマリアを学園に野放しにしていたらアンナライラ以外も呪いの標的に成りかねないと判断いたしました。」
ユースフェリアは胸を張って叔父であるアリットソン学園長に告げた。
「……それは、嘘偽りのないことなのか?」
アリットソン学園長はユースフェリアの顔を覗き込んだ。
ユースフェリアの表情は嘘をついていないようにアリットソン学園長は感じた。
「はい。叔父上。私は嘘偽りなど申してはおりません。これは、真のことなのです。」
「……そうか。」
「はい。」
「……して、アマリア侯爵令嬢がそこの男爵令嬢を呪ったという証拠はあるのか?」
アリットソン学園長はユースフェリアに尋ねる。
「はい。アマリアに呪いをかけられたアンナライラが証言しております。」
「はい。そうなんです。私はアンナライラ様から呪いをかけられました。私は私に呪いをかけてきた相手がわかるのです。だって、私は聖なる力を宿しているのですもの。」
アンナライラはにっこりと微笑んでアリットソン学園長に告げる。
アンナライラの笑みはどこまでも透き通っていた。
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