第5話




「まあ!あなたは私が嘘をついているとおっしゃるの!」


「私にはアンナライラ様を呪った覚えはございません。ですので、別の誰かがアンナライラ様を呪ったのではないでしょうか。」


 アンナライラ様はわざとらしく目を丸く見開いて驚いてみせる。

 

「ひどいわ!私を呪っただけでも卑怯だというのに、そうやって自分は無実ですと言うのはもっと卑怯だわ。」


「私は誰も呪ってなどおりませんので。」


「おまえっ!またアンナライラを苛めているのかっ!!アンナライラは私の婚約者だと言っただろう。」


 アンナライラ様と言い合っていると、ユースフェリア王子が仲裁に入ってきた。

 

 いや、仲裁ではない。アンナライラ様の援護射撃だ。

 

「苛めてなどおりませんわ。アンナライラ様を呪ったのは私ではないと言っているだけです。」


「アンナライラが嘘なんか言うはずがないと何度言ったらわかるんだっ!」


「私だって嘘などついておりませんわ!」


 だんだんとヒートアップしていく私とユースフェリア王子の口論。


「二人ともやめてっ!私のために争わないでっ!!」


 そこにさっきまで私と口論していたアンナライラ様が口論を止めるように涙ながらに訴えてきた。

 

 アンナライラ様の涙腺はどうなっているのだろうか。

 

「アンナライラっ……。」


「……。」


 アンナライラ様の態度の変わりように私は言葉を失った。いや、こういう娘だと言うことはわかっているけれど。

 

 ユースフェリア王子は、アンナライラ様の涙にコロッと騙される。そして、アンナライラ様を抱きとめる。

 

「わたしっ……わたし、ユースフェリア王子とアマリア様に喧嘩して欲しくないの。いくら婚約者という関係が破談となったって、二人には仲良くしていてほしいわ。」


 うるうると上目遣いでユースフェリア王子を見つめるアンナライラ様。

 

 さっきの私に対する態度とはまったく違う。

 

「悪かった。アンナライラ。君がそういうのなら、アマリアのことは一時休戦としておくよ。だが、私はアンナライラが傷つく姿を見たくないのだ。アマリアにいじめられているのは知っている。父上や教師にお願いして、アマリアをこの学園から追放するように働きかけようと思う。」


 ユースフェリア王子は、私をこの学園から追放すると言い放った。


「……学園からの追放、ですか。そうですか。」


 私はどこからか笑いが込み上げてきた。


 学園には対した思い出もない。


 アンナライラ様がことあるごとに私に絡んでくるので、巻き込まれるのを嫌がった令嬢たちは私の側から次第に離れていった。


 所詮は皆自分だけが可愛いのだとその時知った。


 学園に入学してからアンナライラ様に目をつけられる前までに仲良くしてくれていたのは、私という人間と親しくなりたかったわけではなく、私の侯爵令嬢という地位に群がっていただけなのだと知って私は絶望したものだ。


「……なんだっ。追放は取り消さないからなっ!」


「ユースフェリア王子には私を学園から追放する権利もおありなのですね。」


 私はほの暗く笑う。


 不気味そうにユースフェリア王子が私のことを見た。


「……っ!当たり前だ!私はこの国の王子であるぞ。学園からおまえを追放することくらい簡単だっ!」


「そうですか。ユースフェリア王子は私との婚約を破棄するだけでなく、私をこの学園から追放すると、そうおっしゃっているのですね。」


「そっ……そうだっ!私はこの国の王子だからなっ!それくらいのことは容易い!」


「……わかりましたわ。学園から追放されるのですもの。今、私が学園から帰ったとしても問題はありませんわよね?私は、帰りますわ。先生にお伝えください。」


 これ以上ユースフェリア王子に付き合うのも疲れるので私はこれ幸いにと帰ることにした。


「……あ、ああ。」


 ユースフェリア王子は私があまりにも素直に受け入れたので驚きを隠せないでいる。


 アンナライラ様はユースフェリア王子の隣で勝ち誇ったように微笑んでいた。その笑みはとても邪悪に見えるのは気のせいだろうか。


「追放の件も、ユースフェリア王子から学園長にお話しください。」


「もちろんだ。」


「では、失礼いたします。」


 私はユースフェリア王子に背を向けて教室を後にする。


「アマリア嬢、もうすぐ始業時間だ。どこに行く?」


 私が教室から出ると、Aクラスの担任であるウェイン先生がちょうど教室に向かってくるところだった。授業が開始されるというのに、教室から出て行く私のことを不思議がって呼び止めたようだ。


「私は、ユースフェリア王子によって学園から追放されましたの。ですから、私は学園から去ることにいたします。今まで短い間ですがウェイン先生には大変お世話になりました。」


 私は呼び止めてきたウェイン先生に向かって挨拶をする。


 貴族令嬢として相応しい佇まいと気品を持った笑みを浮かべて今までの感謝の意を述べる。


 ウェイン先生はアンナライラ様の言うことを間に受けることなく、私にも平等に接してくれた先生だ。心のどこかでウェイン先生のことは信頼していた。


「ちょっ!待て!アマリア嬢。学園から追放ってどういうことだっ!いくらユースフェリア王子であろうと学園から追放する権利はっ……。」


「失礼いたしますわ。」


 ウェイン先生は私を引き留めようとしてくださるが、私はウェイン先生に深くお辞儀をすると学園を後にした。


 ウェイン先生にはアンナライラ様とのことに巻き込みたくはないから。


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