第4話




「ふんっ。父上から婚約を解消する許可がおりた。今日からお前は私の婚約者を名乗るな。私の婚約者はアンナライラだけなのだから。」


 翌日学園に登園するとすぐさまユースフェリア王子が一方的に話しかけてきた。

 

 どうやら学園の門の影に隠れてユースフェリア王子は私を待ち伏せしていたようである。

 

「承知いたしました。ただ、疑問がございます。アンナライラ様がユースフェリア王子の婚約者になることは王様から許可がでたのでしょうか。」


 アンナライラ様は男爵の義理の娘だ。とてもではないが、王子の婚約者としては身分が低いように思える。

 

 それに、知識や教養も残念ながらあまりないように思える。

 

 それこそ、他の男爵令嬢の方がよっぽどしっかりしている。


「父上の許可はまだだが、必ず父上もアンナライラのことを気に入るはずだ。」


 ユースフェリア王子は自信たっぷりに告げた。


「そうですか。王様に私との婚約破棄を告げる時にアンナライラ様との婚約を申し出てしまえばよろしかったのではないでしょうか?」


 私は不思議に思って尋ねた。その方が効率は良いはずだ。後からアンナライラを婚約者に考えていると伝えるよりも王様がお認めになる可能性が高いのであれば一緒に伝えてしまった方が遥かに効率が良いはずだ。

 

「もちろん申し出たさ。私に抜かりはない。」


「では、なぜすぐに王様はアンナライラ様をお認めにならなかったのでしょうか?」


 私は自信満々なユースフェリア王子に尋ねる。

 

「父上はアンナライラを男爵家の娘だと認識しているからな。身分が低いと考えているのだろう。だが、大丈夫だ。父上もアンナライラに会えばすぐにその考えを捨て去るだろう。アンナライラほどこの私に相応しい女性はいないのだから。」


 王様が自分の息子であるユースフェリア王子の周りにいる人物の身辺調査はしていると思うのだけど。だから、本当にアンナライラ様がユースフェリア王子に相応しいのであれば王様は即答なされるはず。

 

「そうですか。」


「だから、お前は不要だ。今後一切私に近づくな。アンナライラにもだ。」


 ユースフェリア王子はそう啖呵を切った。


「ええ。私からはお二人にはもう二度と近寄りませんわ。」


 アンナライラ様の理不尽な言いがかりに巻き込まれるのはもう嫌ですもの。

 



☆☆☆☆☆





「あら、アマリア様。おはようございます。」


「ええ。ごきげんよう。アンナライラ様。」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべてアンナライラ様は私に挨拶をしてきた。

 

 ユースフェリア王子は、門で待ち伏せ。アンナライラ様は教室で待ち伏せというわけですか。

 

 この学園内では身分はあってないようなものである。そう教えられている。だが、成績というものは多分に評価対象にされており、クラス別けは成績順と言ってもよい。

 

 成績の良い順から、Aクラス、Bクラス、Cクラスといったように別けられている。

 

 アンナライラ様はCクラスだ。私はAクラス。つまり、アンナライラ様は自分のクラスとは違うAクラスで私のことを待ち伏せしていたのだ。

 

 ちなみに例外があって、ユースフェリア王子のクラス別けは成績とは関係なく必ずAクラスとなっている。

 

「アマリア様、王様からユースフェリア様との婚約破棄に承諾がおりたってお話は聞きましたかしら?もちろんご存知ですわよね?」


「……ええ。」


 アンナライラ様の婚約破棄発言に、その場にいた全員がおしゃべりをやめて私たちの会話に聞き耳を立てる。

 

「王様も件名な判断をなされたわ。だって、気に入らない人を呪うような女性はユースフェリア様の婚約者として相応しくないもの。王様としても王室に迎え入れたくなかったのでしょうね。人を呪うような性悪な女なんてごめんですわよね。」


「……私は呪ってなどいないわ。それにアンナライラ様の発言は私に対する侮辱です。いくら学園内は身分を気にせずに過ごせと言われていたとしても、アンナライラ様の発言は見過ごせません。」


「そうね。アマリア様は侯爵令嬢ですものね。でも、私はユースフェリア王子の婚約者なの。将来あなたよりも地位の高い女性になるのよ。だから、今から私に跪きなさい。そうしたら、私を呪ったことを許してあげるわ。」


 アンナライラ様はまだ王様にユースフェリア王子の婚約者として認められていないというのに。

 

「私は、アンナライラ様を呪ったりなどしておりません。ですから、私がアンナライラ様に跪く理由はございません。」


 私はアンナライラ様のことを真正面から見つめる。

 

 私はアンナライラ様に何もしていないのだ。堂々としていて問題ないはずだ。それに、アンナライラ様はまだユースフェリア王子の婚約者として認められていないのだから。


「呪っていないという証拠はあるのかしら?」


「では、逆に聞きます。私がアンナライラ様を呪ったという証拠はあるのでしょうか?」


 皆の前で訊かれたのだから、私も遠慮せずに言い返す。


「あなたに呪われた私がそう言っているの。それが証拠よ。」


 アンナライラ様は証拠にもなり得ないことを堂々と証拠だという。


「それ、証拠じゃありませんよね?私をお疑いになられるのであれば、それ相応の証拠を提示してください。」


 私は毅然と言い放った。


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