十三
食事を済ませてから、クーラーボックスを手に、行ってきます、と揚羽に挨拶する。小気味のいい、いってらっしゃいませ、の返答に気を良くしつつ、勇んで足を踏みだした。
「なにそれ?」
予定通り着いてきた莉花は白いキャップ棒のツバに指先をかけ、そんなことを尋ねてくる。どう答えたものか、と一瞬考えたあと、
「お供え物、もとい買い物用かな」
さしあたっては目的だけは伝えることに決める。
「それって、椎葉家のおつかいみたいなものだったりするの?」
「いや。もっと、個人的なやつ。ほら、昨日言っただろう。夕方の用事。あっち関連の話だよ」
なんとはなしに自称神様たるマツの話をするのが、今更恥ずかしくなってきて話をぼかす。幼なじみは、わかったようでよくわからないといった面持ちで、額に人差し指を当てた。
「お供え物って言ったけど、シロってそんなに信心深かったっけ?」
「別に。どっちかっていうと、形式上の話っていうか」
文字通り、口約束も契約の内、みたいな話であるので、かなり形式に寄った話であり、加えていえば人情に関することでもあるかもしれない。できれば、後者の比重が多い方がいいなというのが白の個人的な想いではあったが、向こうが自称通り神様であったとすればそのかぎりではないだろう。
莉花は首を捻ってから、よくわかんない、と困惑を露にする。それはそうだろう、と思いつつも、どうにもちゃんと答える気にはなれなかった。
「それで、まずはどこに行くの。それ持ってるってことは、買い物から?」
「いや。買い物は最後にしたい」
できうるかぎりの対策こそ打っているものの、長時間このうだるような暑さの下にいれば、どろどろになりかねない。ならば、帰り道の途中に寄るのが妥当だろう。
「だから、まずは向日葵探しかな」
思い出の土地の探索。毎度のことではあったものの、少しばかり絶望的な気持ちにならなくもない。なにせ、何年探しても心当たりに行き着いておらず、今回こそはと奮起しては成し遂げられていない現状は、白の精神を腐らせていた。
「ここら辺を案内してくれるって話はどうなってるのかな……」
「そこは抜かりない。名所みたいなものもあんまりないから、歩いてるだけでここら辺の案内になるし。とは言っても、なるたけ面白そうなところを選んで歩くつもりだけど、リカのお眼鏡に適わないかもしれない」
昨日の車窓から外を眺めていた時の振る舞いからすれば、おそらく楽しんでくれるとは思えたが、絶対にそうなる、という自信は白の中にはない。
莉花は、首をぶんぶんと横に振ってから、
「いやいや、絶対楽しいって。ありがとね、シロ」
まだ何もされていないにもかかわらず、感謝の言を口にする。
「気が早過ぎるだろう」
苦笑する白に、莉花も、そうかも、と同意を示しておかしげな声を出す。少しばかり、足が軽くなった気がした。
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