卵から孵化したてのよわよわドラゴンに転生した俺が、サバイバルを勝ち抜いて生態系のトップに立ったのに、ビキニアーマーの女騎士に屈してしまった件

セレンUK

卵から孵化したてのよわよわドラゴンに転生した俺が、サバイバルを勝ち抜いて生態系のトップに立ったのに、ビキニアーマーの女騎士に屈してしまった件

(うおおおおおおおおおおおおおおお!)


 俺の後ろからは巨大な二足歩行のトカゲが歯を光らせながら追いかけてきている。

 少しでもスピードを落とせば鋭い歯の餌食となって、そこでDEATH ENDだ。


 ヤツよりも小さな体だというメリットを生かして急な方向転換をかけるも、歩幅がでかいヤツには通じはしない。


(し、し、死ぬぅぅぅぅぅぅ!)


 もはやこれまでか、と思った所で偶然あった岩の割れ目に体を滑り込ませることで、難を逃れることが出来た。

 危うく儚い命を散らすところだった。


 少し俺の事を説明しておこう。

 俺はたぶん人間だった。今は違う。

 気が付いたら古今東西の魔獣が生息する森の中。そんな中にワイバーンの幼体として生まれたのだ。


 卵から孵化した俺は訳も分からず、同じく卵から生まれた同胞に襲われた。

 辛くも撃退した俺は、同じく他の仲間が撃退した個体を食う事で体を一回りも二回りも大きくしたのを目撃した。どうやら捕食することで力を上げられるようだった。

 このままこの死骸を食わなければ、巨大になった同胞たちの牙が俺の方を向くに違いないと思い、俺は必死に間食し、後れを取ることなく成長した。

 第二ラウンドが始まろうとした時、空からの大型の鳥類の乱入によって沢山の同胞は命を散らした。

 俺はかろうじてその場から逃げ去って……このサバイバルを今まで生き延びているというわけだ。


 ガジガジとそこらで捕まえた甲殻虫をかじる俺。

 自分より弱い相手とは言え、少しはパワーアップできる。

 相手を倒して食べなければ、生き残らなければ、明日は我が身なのだ。


 巨大な二足歩行のトカゲ。

 あいつがこのあたりで食物連鎖カーストの頂点に立つ唯一無二の存在。

 目につくものは全て食いちぎるという悪癖の持ち主で、頂点だと言うのに日々力を上げていることになる。


 下位の生き物はヤツの影におびえながら生きて行かなくてはならない。


 そう思っていた時期が俺にもありました。

 あれから1年。


 俺は不思議な力に目覚めた。おそらく魔法というやつだ。

 ここいらでは誰も使ってこない俺だけの力。おぼろげながら前世の記憶があることが能力の習得に繋がったのかもしれない。


 いくつかの魔法を習得していたが、決め手になったのは相手の視界を奪う魔法。

 そいつを使って、あのナンバーワンカーストの二足歩行トカゲを打ち取った。

 そしてそいつを捕食することで、俺の体は巨大になり、この森の中で頂点を取ることとなった。

 俺は魔法を操るドラゴンとなったのだ。

 空でも敵は居ない。俺が生まれた日に襲って来た巨大な怪鳥も今では三時のおやつでしかない。


 誰からも襲われることはない。

 命の自由を勝ち取ったことで、心に余裕が生まれた。

 なぜ俺は生まれたのか。これからどうすればいいのか。などを考える暇が出来たことによって、生物の根源たる繁殖について思い至った。


 考えるまでもなく、心は人間。同じくドラゴンと繁殖できるのか、と言えばそうはならない。

 かといって、人間と繁殖行為が出来るのかと言うと……。物理的に無理だな。

 そもそも人間が存在するのかも分からない。


 その考えに至った俺は生まれ育った森を出る事にした。

 大空を飛び山を越え、一面砂の大地や、溶岩溢れる灼熱の大地を見てきた。

 幾日も幾日も飛んでいるうちに、この世界には人間は存在しないのだ。と諦めモードに入っていた。


 そんな折、眼下にいる獣をおやつにしようと狙いを定めたのだが、その獣が追っていたのが人間だった。

 俺は早速ファースト人間に接触を試みた。ついでにおやつもいただいた所、怯えた人間は一人を置き去りにして逃げ去ったのだ。


 逃げたのは男。置き去りにされたのは女。


「GYAOOOOOOOOOOOOOOOON!!」


 意思疎通を試みるが、言語が……。

 あちらの言葉は理解できる。だけど俺の声は届かない。


 女は怯えた様子ではあるが、覚悟を決めた表情をしている。

 男の娘なのだろうか。若いのは若いが……、好みかと言われるとどうかなーって思うお顔だったので、何もせずに飛び去った。

 

 ファーストコンタクトは失敗に終わった。

 でも人間がいると分かったのは収穫だ。そしてメスドラゴンよりも人間の方が好みだと言うことも改めてわかった。


 人間がいるということは集落があると言うことだ。

 それを証明するかのように、俺の翼で少し飛んだところに集落を見つけた。


 幸か不幸か、魔物たちに襲われているようだったので、軽く蹴散らした所、またもや一人の少女が差し出された。

 言語を解析したところ、俺への捧げものらしい。

 ちょっと頭がくらくらした。

 いったいこの世界の人間の文化はどうなっているんだ。


 問いただそうとしたところで、体に変調をきたした。

 この感覚は知っている。脱皮だ。

 俺は急いで近くの山の洞穴に身を隠した。脱皮の際は無防備になる。そして脱皮後、深い眠りがやってくることを経験しているからだ。


(ふあぁぁぁぁぁ!)


 大きなあくびをする。

 洞穴で無事に脱皮を終え、冬眠ならぬ脱皮眠を終えた後の清々しい気持ちである。

 結構長い間眠っていたらしい。季節が変わっている。


 空腹を満たすため、幾日かを狩に費やした。


(うっめ、肉うっめ!)


 今日の晩御飯は巨大な豚型の魔獣。それなりに強い種族なのだろうが、ドラゴンの俺には歯が立たないただの獲物だ。


 そうこうして、脱皮疲れをいやしていると、ねぐらの洞窟の前に人間の女が現れた。


「ドラゴン様、私はあなた様の生贄に選ばれたマリアと言います。どうか村を襲わないでください」


 などと申している。


「GYAOOOOOOOOOOOOOOOON!」


 (生贄とかいりませんので)


 そうなのだ。生贄と言われても困るのだ。


「お願いします。お怒りをお静めください」


 相変わらず意思の疎通ができないな。

 しばらくすると身の上を語りだしたことで、この娘は村には帰れないという事がわかった。

 じゃあどうしろというのか。この洞穴で一緒に暮らすのか?

 それは素敵な事かもしれないが、彼女にとっては地獄だ。食べ物を食べるもの一苦労だろう。俺が採ってきた生肉の毎日だ。


 とりあえず遠くの町に運んで置いてきた。

 そこで静かに暮らしてくれ。


 さてどうしたもんか。人間とは意思疎通できないし、一緒には暮らせない。

 森に帰るか、それとも新しい生息地を探すか、なんて考えながらダラダラと洞穴で過ごしていたら、いつの間にか1年が経っていたようで――


「ドラゴン様、私は今年のあなた様の生贄に選ばれたエミリーと言います。どうか村を襲わないでください」


 (年度イベントになってるーーーーーーーーーーー!)


 身の上話を語りだしたのを聞く処によると、将来を誓い合った男がいるらしいので、追い返しておいた。


「ドラゴン様!」


 数日後、違う女がやってきた。


(チェンジで!!)


 生贄とかめんどくさい。でも俺の住所がバレているのでお中元のように送られてくる。

 だったら引っ越せばって思うだろうけど、ドラゴンとしてのプライドがそれを許さない。


 俺はここで生きる!

 そう決意をしてから数日が経ったある日。


「お前が村人たちを苦しめている邪竜か! この私が成敗してくれる!」


 これまでとは違うタイプの生贄さんがやってきた。

 またまたペラペラと身の上を話し始めたので聞いてみると、どうやら俺が村に生贄を要求していることになっているらしく、困り果てた村は国に俺(邪竜)の討伐依頼を出したということだ。

 そこで白羽の矢が立ったのがこの女騎士。

 人間にしては強そうだが、いかんせん俺(ドラゴン)とは生き物の造りが違う。


 ちょい強めの咆哮にも耐えるめんどくささなので、適当に相手をしてお帰りいただこうと思っていた慢心がまずかった。


 よくわからないまま動きを止められて、そして光り輝く剣で滅多切りにされた。

 俺の鱗もかなりの強度があったが、あの剣の前にはまな板の鯉と同じだ。鱗をはがされボロボロにされて、抵抗できなくなったところで、怪しげな魔法をかけられた。


「さて、これでお前は私に服従することになった。逆らうことは許されない」


 何を馬鹿な事を、と思ったが、振り上げた爪を振り下ろすことが出来ないし、火炎で焼いてやろうとしても火炎を吹き出すことが出来なかった。


「今日からお前の名前は、どすこい丸だ。私の国の古い言葉で強靭な翼という意味だ」


(はぁぁぁぁぁぁ!? どすこい丸? 俺が? ふ、ざ、け、る、な!)


「ほら、討伐報告のために戻るんだから、さあ飛べ!」


 女は俺の背中にまたがると、べちべちと体を叩き始めた。

 俺はドラゴンとしてのプライドから飛ぶのを拒否していたが、


「GYAWAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 激痛が走りました。

 服従の魔法に逆らうとそうなるんだとさ!


 おのれ人間め!


 それからというものの。


「そら、どすこい丸、食事だぞ」

「いけ、どすこい丸、火炎放射!」

「よーしよし、いい竜(こ)だ、後で尻尾までピカピカに拭いてやるからな」


 などと、この金髪ビキニアーマー女騎士、シャルルにペットのように扱われる始末。

 俺は野生のドラゴン。人間なんかに屈しない! 今は服従の魔法があるから従っているだけなんだからねっ!


 正直な所、シャルルはこれまで見た女の中で一番の好みだ。

 魔物と戦う強靭な体も持っている。つまり、俺とエッチな行為に及んでも大丈夫な体の持ち主なんじゃないかって思ってる。

 まあ向こうは俺がそんなことを考えてるなんてつゆ知らずだろうな。

 知ってたら水がかかったら透けてしまうようなそんな薄着でおれの体を拭いたりはしないだろう。


 見てろよ、いつかこの魔法を解いて、お前に俺の子供を産ませてやるからな!


「なんだ、どすこい丸。今日は機嫌がいいじゃないか。ここが気持ちいいのか? いいだろう。もっときれいにしてやるからな」


「GYAAAU!」


「明日も頑張ろうな。お前がいてくれるおかげで私は沢山の民たちを守ることが出来ている。感謝しているぞ」


 (ふ、ふんっ! まあ当然のことだな! お前がそこまで言うなら、もうちょっとだけ、手伝ってやってもいいかな)


 まあこんな感じで最近は生きてます。


 この後、シャルルにちょっかいを書ける男騎士を半殺しにしたり、王子様との結婚話とか上がったりするのをぶち壊し(力技)にするのはまた別のお話だ。

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