第8話 私たちのお楽しみ会
なんだかんだと、6年生になって友達が増え私は、バスケに学級新聞に大忙しだった。
この頃、漫画を小説にしたようなキラキラしたイラストの少女向けライトノベルと言うものが爆発的に流行し。
私も漫画と並行して読むようになった。
それを真似をして、自分で漫画や小説を書いたり、バスケで青春をしたりと私は充実した毎日を送っていた。
その間、
まったく宿題は出さないし、授業中も脱線っしてはお笑いネタばかりで、もう少しまじめにやって欲しいと思わなくもなかった。
それがいいことかどうかはよくわからないが、少なくともクラスを一致団結させる原動力になっていた。
文化祭の演劇のセリフのある役に、積極的に立候補するように勧めたり、運動会の前は体育の授業も運動会の秘密練習にあてていた。
そうすることで、リーダー不在のクラスにおいて、人前に立つことが得意になってくる子、クラスをまとめることが上手い子など、個性が際立つようになった。
神野先生は、夏休みには有志のサイクリングにも引率してくれた。
元気があふれて来たクラスが、先生の声で静かにならないこともしばしば出て来ると、神野先生は大人げなく怒って、職員室に引きこもってしまうこともあった。
良いところばかりではない。大人げない困ったところもある先生だ。
ただ、それでも憎めないのは神ちゃん先生が担任になったことで、教室には大きな笑い声が絶えなかったからだ。
*
あるとき、神野先生が秋の学習発表会の『打ち上げ』をしようと言い出した。
(打ち上げってなに?)
よく分からない私は先生の説明を聞き『おつかれさまの会』だと理解した。
具体的には、何らかのパーティーができる時間を半日くれるのだと言う。
それを小学校では通常『お楽しみ会』と呼ぶのだが、このクラスはお楽しみ会という物がどういう物か知らないようだった。
説明すると、お楽しみ会というのはグループに分かれて出し物をして楽しむ、手作り宴会のことだ。
私が前の学校でやっていたものは、人形劇、手品、クイズ、合奏、合唱などだ。
それらをするために、教室内を紙のお花や折り紙の輪っか飾りで飾ったりもする。
「じゃあ、やりたいことを上げて下さい」
委員長の島田君が言うと、ぽつりぽつりとそれらしい候補が上がって来た。
・ドッヂボール大会
・おにごっこ大会
・クイズ大会
どれも、パッとしない。
というか、お楽しみ会を知っている私からすると、的外れな案にどこから提案していいのか悩む。
(お楽しみ会というものは、こういう物であるとみんなに説明した方がいいのだろうか?)
しばし悩んだが、本当のお楽しみ会を知っている私は別にお楽しみ会でなくてもいいような気がしていた。
「神野先生、おやつや飲み物も持ち寄っていいんですよね?」
私が確認すると、神野先生は、
「いいぞー。給食が食べられる程度にしろよ。あと、先生も何か持ってくる」
『わぁぁ!』とクラスが期待にわく。
けれど、なかなか具体的に何をするのか決まらない。
ぐだぐだなクラス会を見かねて、私はひとつ提案してみる。
「先生。私、ディスコ? クラブ? っていうのがやってみたいです」
「は? え、天城、何を言って……」
先生がひくっと頬をひきつらせた。
この案が通らなくても構わない。
先生の想像を超える案が出せたことに、私は満足してにやりとした。
「大人がお酒を飲んで、曲をかけて踊って遊ぶ場所なんですよね? マネしたいです」
もう、神野先生が怒るラインを知ってしまった私は、ぎりぎりを責めてみる。
すると、クラスのみんながのって来て、次々と案がでてくる。
「いいね。それ!」
「おもしろそう~。派手な私服とか着たらどう?」
「神ちゃんいいアンプ持ってるんだから、曲かけてよ」
「アニソン!」
「美少年ユニット曲!」
完全に流れは、その方向に乗り始めた。
真面目な委員長の島田君は、ちょっと引き気味だがそれでも、多数決をとって締めてくれた。
こうして、一班1曲好きな曲を持ち寄りディスコもどきをすることになった。
*
当日、それは意外なほど盛り上がった。
みんなで話し合い、制服の学校だったが、なるべく派手な私服を持ち込んで着替えた。
教室は暗幕のカーテンをひき、ペンライトや懐中電灯を持ち寄った。
ミラーボールがあればなぁという無言のプレッシャーに応じ、神野先生が調達してくれた。
少しのおやつを食べてシュワシュワするジュースを飲んで、アニソンでぴょんぴょんと飛びはね踊ると、笑いが込み上げてくる。
「くーちゃん。なんだか、馬鹿みたいだけど楽しいね!」
「そうだね。蘭ちゃん。馬鹿みたいだけど楽しい!」
それは本物のディスコでも、クラブでもない。ただのごっこ遊びだ。
でも、もう6年生にもなるとごっこ遊びもできやしない。
だから、この本気の大人のごっこ遊びが、楽しかったのだ。
私たちは、卒業を前にして心を一つにして笑った。
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