第4話 キャプテンのアキちゃん

 放課後、私は週に2回バスケ部に通うようになっていた。


 唯一の親友、久美ちゃんことくーちゃんと一緒だ。


「蘭ちゃん、今日はミニゲームやるって~」


「やった! 同じチームになるといいね」


 私とくーちゃんは、パンとハイタッチをする。

 私は、走ってばかりの練習はあまり好きではなかったが、色々な駆け引きがある試合はとても好きだった。

 私は、人の先を読むのが上手くパスカットが得意だったし、普段は正直者なのになぜかフェイントで出し抜くことに長けていた。

 転校前の学校で、ケイちゃんと言う子がその技を私に散々叩き込んでくれたからだ。


(ホント、ケイちゃんに感謝。じゃなかったら、今ごろまだ友達もできずに泣いていたところだよ)


 そう、クラスでの友達はまだくーちゃんだけだったが、バスケ部の部活内には違うクラスの友達がたくさんできた。

 バスケは、5人でやるスポーツだ。

 女子バスケ部の部員は、下級生も含めて13人ほどいる。

 入部して2か月だったが、名前を覚えなければ試合にならない。


 私はくーちゃんに教えてもらって、チームメイトの名前を憶えて、試合でも活躍できるようになった。

 ただ、スポーツは信頼関係が大切だ。


 入部したての私は、キャプテンにはなれない。

 それは十分理解していたので、私は6年生の中で誰がキャプテンになるのかを見守った。

 キャプテンになったのは、一番背が低くて走ることが苦手なアキちゃんだった。

 ちょっと意外だった。

 アキちゃんは、とてもやさしく、気配りの出来る子だが、バスケはあまり上手ではない。

 正直、私が入部したことでアキちゃんはスタメンを外されることも多くなっていた。


(もしかしたら、アキちゃんにうらまれているかもしれない……)


 私は、時々心配になることがあった。

 けれど、それはアキちゃんのことをよく知らない私の思いすごしだった。


   *


 あるときキャプテンになったアキちゃんが練習の合間に私をこっそり呼んだ。

 もしかしたら、恨み言を言われるのかもと思い、私は内心びくびくしていたがそうではなかった。


「蘭ちゃん。私、蘭ちゃんが入部してくれて本当にうれしいんだ」


 アキちゃんは、にこにこと丸い顔をさらに丸くして言う。


「私、心臓の手術をしたことがあってあまり走れないのね。どうしてもフルでは出場できないからさ、6年生は足りないし蘭ちゃんが来てくれて本当に助かってるんだ」


 私は耳を疑った。

 いつも、元気にしてるアキちゃんが心臓が悪かったなんて知らなかった。


(そんな、漫画の悲劇のヒロインみたいなことがあるのだろうか?)


 私は、騙されているような気がしてアキちゃんをまじまじと見た。

 アキちゃんは、信じられないよねと笑って、Tシャツの襟首を少し下げて胸元を見せてくれた。


(――― !?)


 私は息を飲んだ。

 古い傷なのだろう、もう皮膚の色はそう変わらないが、確かにそこには縦に長くやけどが治ったようなつるつるとした傷跡があった。


「ごめん、アキちゃん。私、何も知らなかった……」


 そうして、私はスタメンのラストナンバーである8番を背負った。


 それは、私を最後まで試合をあきらめない8番にしてくれた。

 

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