第13話最適な理由

「買い出しに付き合え?」


自室から顔を出すと、いつの間にか二人が部屋の前に立っていた。

リンはなぜか仁王立ちで、ユウナはちょっと申し訳無さそうな様子である。

ユウナの態度が正解ではなかろうか。

仮にも人にものを頼むというのなら。


なんだろうと身構えたナツメに、買い出しに付き合ってほしいと言われたときの感想である。

リンの態度のせいで、無駄に身構えてしまった自分が少し恥ずかしくもある。


「片付けはどうしたんだ?」


あの山のような段ボール箱がそんなにすぐに片付くとは思わなかった。

思わず尋ねてしまう。


「リンが飽きてきたから、少しも進まなくって……」

「だって荷物が多すぎるんだもん!気分転換に買い出しに行きたいの、付き合って?」


ユウナが項垂れている横でリンがニコニコしながら答えた。

立場的に態度は逆なのではと思わなくもないが、それが二人の関係性を表してあるようでもある。

リンの我儘を、ユウナがこうやってフォローしているのだろう。


しかしリンは堪え性がない。

片付けに飽きるのが早すぎる。これでは今日中に片付くのかどうか不安になったが、ナツメが気にすることではないのだろう。


「なんで、俺まで……」

「荷物持ちは多い方がいいでしょ?」


ぼやいたナツメに、リンがすかさず答えた。

荷物持ちって、ナツメにだけ持たせるつもりではなく?

一抹の不安を抱えて、猜疑心の目を向けてしまう。


「何を買うつもりだよ?」

「とりあえずは、昼ご飯と夕ご飯の材料かな。さっき冷蔵庫見たら、だいぶ少なくなってたから」


それくらいなら、二人いれば十分では?

なぜナツメを連れていく必要があるというのか。

煮え切らないナツメの態度に、リンの目がつり上がった。


「可愛い妹の頼みくらい、素直に聞いてくれてもいいと思うの!」

「押しかけ妹の頼みはちょっと遠慮したい……」

「はあ?まだそんなこと言ってるわけ?」


どちらかは他人であるわけだし、ますますナツメが従う理由はないだろう。


けれど、瞬時にリンが豹変した。

この子は沸点が低すぎやしないだろうか。


もっと穏便な子だと思っていたのに。


「まあまあ、リン。この辺の地理もよくわからないから、ついてきてもらえるとありがたいかなって」


ユウナがリンを宥めつつ、最適な理由を持ち出した。

なるほど、それならついていってもいいかもしれない。


別に帰ってこなくても、ナツメは何一つ困らないけれど。


「わかった」

「ふーん、ユウナの言うことは聞くんだ?」


口を尖らせたリンに、ナツメは動揺を隠しながら言い返す。

別に気になる子からの頼みだから、聞いてるわけじゃない。


「正当な理由なら、動くだろ。俺は人でなしじゃないしな」

「へぇ、じゃあ私のお願いも聞いてくれるよね?」

「だから、買い出しは付き合うって言ってるだろ」

「それとは、別のことだよ!」

「はぁ?」


別のことだというなら、内容次第になるが。

再度、ナツメは身構えた。

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