第11話挨拶

朝食を食べ終えたナツメの食器をリンは怒りながらもさっさと流しに運んでくれた。

そして大量に届いた段ボール箱を片付け始めた。ユウナはすでに段ボール箱を運ぶ運送業のお兄さんにテキパキと指示をだしていてここにはいない。


「部屋はどうするんだ?」

「物置だった部屋があるから、二人で1つを使っていいって言われてる」


家主よりも同居人の方が詳しい現実に、心がちょっと折れそうになる。


リンについて廊下を進めば玄関横の物置部屋は、いつの間にか母が片付けてベッドを入れていたらしい。

部屋を覗いて、学習用に使えそうな机まで入っていることに素直に驚いた。

いつの間にこんなに家具を手配していたのか。


「ベッドが1つしかないけど?」

「私は布団派だから、家から送ってもらったの」


リンが示した先には積み上げられた段ボール箱の横にある布団袋に包まれた寝具一式が見えた。

フローリングに直に敷くつもりらしい。


唯一、和室の部屋もあるのだが、そちらを勧めるのはなんとなく躊躇われた。仏壇が置いてあるのだ。


しかし玄関横の物置部屋だと思っていたので、あの大量の荷物の行方も気になるところだ。母が片付けたのだろうが、よくこんな短時間でできたものだと感心する。そしてあの荷物はどこにいった?

ナツメが昔遊んでいたオモチャや、着れなくなった服など思い出深い品々も含まれていたのだが。


「今まで気づかなかったの?鈍すぎ」

「お前は本当に口が悪いな」

「図星をさされたからって怒るのは人としてどうかと思うよ」

「……っ!」


だから、そういうところがリンは口が悪いというのである。


テキパキと荷物を分けたユウナが運びこんだ運送業のお兄さんに礼を言って戻ってきた。


「凄い量になったわ。クローゼットに入る分はいれちゃっていいよね」


一部屋の真ん中に高く積まれた段ボール箱を見上げて、ユウナが苦笑した。


「うー片付けキライ……」

「リンが苦手なのは知ってるけど、文句言ってるだけじゃ片付かないから。ほら、さっさとやらないと日が暮れちゃう。必要なものの買い出しに行かないといけないでしょ」


料理の指揮はリンで、片付けはユウナが主導らしい。

役割分担ができていて、効率がよさそうだ。

仲の良さについほっこりしてしまった。

いや、だから絆されてはいけないのだ!


慌てて、気を引き締める。


「あ、お兄ちゃん。後でパパにも挨拶させてね」


リンが自室に戻ろうとしたナツメに気がついて声をかけてきた。


和室に置いてある仏壇を知っていたらしい。

どうやったのか、父の仏壇が置いてあるのだ。

普通は本妻の家にあるものじゃないかと思うのだが、生憎と母に確認したことはない。


「……わかった」


腹違いとはいえ、妹には違いない。

つまりあのクズの父の娘であるからには、挨拶する権利はあるわけで。


和室はナツメの自室のリビングを挟んだ向かいの部屋である。

そこだけ襖になっているので分かりやすい。


母からしっかり聞いているとも思う。


「ありがとう」


リンとユウナに声を揃えてお礼を言われた。


「片方は他人だろ?」

「お父さんとは二人とも仲良しだったよ」

「パパってば可愛い娘が二人もいるっていつも感激してたもんね」


ナツメの疑問に、ユウナが答えてリンが穏やかに笑う。

二人は幼馴染みのような間柄なのか。


それはさておき。

あのクズの父は、他人まで娘と呼ぶほどの節操なしだったのかと目眩がしたのだった。


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