第10話妹のお願い

「それは、こっちにも事情があるのよ。キイさんにもちゃんと了承はとってるから」


怒りながら、リンが乱暴に答える。

選手交代ということらしい。この役割分担がどうなっているのかは、別にして。


つまり母は初めから二人来ることを知っていたということか。

妹だけでも同居を反対している息子に、もう一人妹ではない女の子が来るとは言えなかったのかもしれない。


「つまり、どっちかが妹で、どっちかは他人だと認めるんだな?」

「それは認めるけど、ばらすつもりはないよ。お兄ちゃんには、どっちも妹だと思ってほしいから」


ナツメが念を押せば、リンはあっさりと頷いた。

片方は他人だとわかっているのに、妹と思えとは、なんて勝手な言い分だ。

片方は淡い恋心なんてものを抱いている相手だというのに。まぁそれはそこまで重要ではない。どうせ発展させるつもりなんかないのだから。


できるなら、これを論破して二人とも出ていかないだろうか。


「なぜ?」

「こんなに可愛い女の子と同居だよ。妹じゃないってわかったら、お兄ちゃん襲っちゃうでしょ」

「襲わないけど!でも、そんなに不安だったら、今すぐ出ていってくれ!」


ナツメは思わず怒鳴ってしまう。

自分たちを可愛いと自信満々に言うのは別に仕方ない。お世辞抜きにしても可愛いのだから、むしろ自覚があるだけ結構なことだ。鈍感要素など、二人にはいらない。ハッキリ言ってナツメの脅威にしかならない。


そして彼女たちが身の危険を感じるというなら、さっさと逃げればいいのだ。

だが、リンは勢いそのままに怒鳴り返してくる。少しも怯む様子がない。


「襲わないなら、いいじゃない!」

「良いわけあるかっ。さっさと帰れ!」

「だから、それはこっちにも事情があるんだってば。可愛い妹のお願いくらい、叶えてくれてもよくない?」

「なんであったこともない腹違いの妹の願いを聞かなきゃならないんだ?」


そもそもお願いする態度ではない。

そんな横暴な態度があっていいのか?


「お兄ちゃんは妹の願いを叶えるのが当然だから!分からず屋の頑固者。お兄ちゃんがそんなに偏屈だとは思わなかった!」

「それはこっちの台詞だ!あと、お兄ちゃん言うな!」

「バカでもアホでも、お兄ちゃんでしょ!」


リンはもっと穏やかな性格だと思っていた。まさか、こんなに口が悪いとは。

教室の雰囲気とは、本当に別人である。


「だから、二人とも落ち着いて。とにかく荷物は今日届くように送ったし、キイさんが帰ってくるまでの間だから、よろしくお願いします、お兄ちゃん」

「よろしく、お兄ちゃん」


綺麗にペコリと二人は揃って頭を下げた。

話はこれでおしまいだとでも言いたいらしい。


ナツメとしては全く納得できなかったけれど、この場はひとまず終了するしかないようだ。


玄関のチャイムが鳴って、大量の段ボールが届いてしまったのだから。

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