第6話嫌な予感

昼休みは怒濤の話し合いとなった。

様々な意見が飛び交い、そして結局は意見がまとめきれず、昼休みの終了が近づいてしまい、各自一つ以上の案を出すことと宿題が出され解散となったのだ。

精神的に酷く疲れた。


なんとか午後の授業を粛々とこなして、泥のように重たくなった体を引きずるように帰宅してみれば、家に母の姿はなく、台所のテーブルの上に一枚のメモが残されていた。


「メモ?」


時刻は夕方の17時である。

母は仕事で19時以降にしか帰ってこないので、家に誰もいないのはいつものことだ。けれど、なんとなく家の中が片付いている気がする。荷物が少ないような気がする。普段より静まりかえっている気がする。


そんな違和感を積み上げて、西日が差し込むダイニングテーブルの上にちょこんと置かれた紙切れに、猛烈に嫌な予感がこみ上げた。


昨今、電子メールで連絡がとれる時代である。

なのに、紙のメモ。


恐る恐る近づいて、短い文章を一読すると、ナツメは膝から崩れ落ちた。

フローリングの床に制服のまま、両手両足をついた状態である。


「母さん――――っ!!」


『今日から海外に行ってきます。妹ちゃんが来るから、仲良くするのよ。母より』

「俺は承諾してないよねっ!?」


しかも、海外出張は今日からなのか。

あの母はギリギリまで、息子に黙っていたのだ。

よほど言い出しにくかったに違いない。

おしゃべりな母である。よほど我慢したのだなと察することは簡単だが、だからといって許せるわけではない。


だがメモに叫んだところで、妹が来ることは決定であるらしい。

しかもいつ来るのか書いていない。

連絡先も何もないメモに愕然とする。


母はいつも海外に出張に行く時には、会社から海外用の携帯電話を持たされる。

その連絡先を書いてくれるのだが、それでしか母に連絡が取れないのだ。


だというのに、今回はその連絡先すら書かれていない。

文句を言われることを恐れたのか、単純にうっかり忘れたのかはわからない。ただ、これでは母にやめてくれと言うことができないのだ。


ナツメは頭を抱えた。


いつ来るのかわからない腹違いの妹に、とりあえずお引き取り願うしかない。

だいたい、男子高校生と二人暮らしとか普通の女の子は嫌がるだろう。

了承したからには何か理由があるに違いない。よほどのことがなければ、絶対に嫌だと思う。というか、思って欲しい。


頑張ってその理由を聞き出して、とにかく帰ってもらうしかない。


堅く決意して、ナツメはなんとか立ち上がるとよろよろと着替えるために自室に向かうのだった。

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