第5話自然な行動
朝にリンから声をかけられたのは、図書委員の連絡だった。
同じ委員を務める東和ユウナが伝言を預けたらしい。
彼女の名前に思わず緊張したナツメだったが、事務連絡と聞いて脱力した。
昨日の放課後に、緊急集会の招集の告知があったらしい。
こうやって突然集められるのも直々ある。議題はその時によって様々だ。
なぜかこの学校は図書委員の活動が活発で、しかもアグレッシブル。
一年生から務めた者が三年間ずっと図書委員をやっていたりする。それも並々ならぬ熱意をもって、だ。
ナツメはそれを知らなかったが、ユウナは図書委員の先輩から事情を説明されて図書委員を引き受けたと聞いていた。
おかげで、ナツメに事務連絡が伝わってこないことが多々ある。けれど、ユウナは確実に伝達されるので、彼女は気にしてナツメに連絡をくれるのだ。
リンはナツメのような陰キャであっても差別することなく、こうして普通に話しかけてくる。
もちろん、ユウナも同じである。だから二人揃って、男子の人気が高いのだ。
リンには礼を言って、昼休みに弁当を急いで済ますと図書委員の集会場所に向かった。もちろん、図書室である。
図書室は特別棟の三階の端にある。
ナツメの教室は普通棟の三階になるが、特別棟にいくためには二階の渡り廊下を使って行くのが一番早い。一階分下りて、また一階分だけ階段を上るという行動がひどく億劫に感じてしまう。
だが、ナツメの足取りは軽かった。
「良かった、伊佐くん。リンから伝言聞いてくれたんだ」
図書室に向かう途中の階段で、ユウナと出会ったからだ。
制服をきちんときこなして、シャツも第一ボタンまでしっかりと止めている。
絵に書いたような優等生なのに、少しもとっつきにくいところがない。彼女の空気は優しくて癒やししかない。
ショウジはナツメがユウナに片思いしていると決めつけているけれど、少しいいなと思ってるだけだ。彼女が可愛いし、とても性格の良い子であることはわかるので。
むしろ彼女に好意を抱かない男子なんていないだろうとすら思っているだけなのだ。
ナツメはユウナと並んで階段を上る。
同じ場所に行くために、並んで歩くことになるのだから、とても自然だ。
この図書室に着くまでの短い時間が、ナツメにはとても居心地がいい。
「聞いたよ。いつも、連絡ありがとう」
「私は土岐先輩から教えてもらっただけだから。図書委員も集会を頻発するなら、連絡方法は考えるべきだよね」
土岐ミナミはユウナの中学時代からの先輩にあたる3年生だ。
彼女を図書委員にならないかと声をかけたのもミナミであると聞いている。
ナツメだって確かにこうして毎回集まるたびにユウナに迷惑をかけるわけにはいかない。
ただ、気にかけてもらえるのは純粋に嬉しい。
彼女は図書委員の学年代表であるので、こうして細やかに気遣ってくれているだけだとわかっているけれど、心が浮ついてしまうのも事実である。
「お昼ご飯は食べられた?」
「ああ、ちゃんと食べたよ」
「良かった。今日の議題長くなりそうだから、食べていなかったらお昼なしになると思うの」
「なんでそんな長くなるような話を昼休みにするんだ……」
「そこは、佐波先輩だから?」
図書委員長でもある佐波ギンは三年生で受験生だというのに、いつも図書室について真剣に考えているような変わり者だ。
まだ5月なので、それほど受験に前向きになれないのかもしれないが、進学校の3年生など受験一色なのだ。
単純に現実逃避なのでは、と疑ってもいる。
「今日の議題って何?」
「図書室の本を借りたまま卒業しちゃった人へ、どう返却を促すかって聞いたけど……」
「なんで、そんなのを昼休みにするんだ?」
「あはは……」
同じことを呟いてナツメが頭を抱えれば、ユウナも乾いた笑いを返すのだった。
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